「ペンは剣よりも強し→ペンは権よりも弱し」新聞記者 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ペンは剣よりも強し→ペンは権よりも弱し
鑑賞中、「印象操作はやめてください!」と某首相が連呼する姿を思い出したのですが、その代わりに内調が情報操作をしている皮肉。本作には官房長官どころか総理の姿さえ一切登場せず、新聞記者側と内閣情報調査室のみがクローズアップされていました。前半部分ではあまりにも現実に起こった疑惑をそのまま使っている・・・元文科省官僚に対するスキャンダルや性暴力被害に遭った女性、さらにそれが不起訴となった件。いいのか?ここまでそっくりにして!と思ったものの、後半になると加〇学園の問題を取り上げるかと見せかけて、生物化学兵器というとんでもない方向に行ってしまった。
元となった望月衣塑子著「新聞記者」とはちょっとかけ離れていったみたいですが、実際の彼女や前川喜平氏、マーティン・ファクラー氏、南彰氏の討論VTRを織り交ぜることで整合性を保っていたのかな。ただ、期待していた官邸記者会見での勇気ある質問の姿を期待していたため、その辺りは少々マイナスだった。
記者が中心となる、権力と立ち向かう社会派映画作品は60~70年代は全盛だったような気がするのですが、それを現代に蘇らせたような映画でした。当時はまだ活字を拾い上げて印刷していた新聞。夜中の最終チェックに引っかかって、原稿が無駄になってしまうなんてのがよく描かれていました。ちなみに好きなのは『野性の証明』です。
今の世の中、公安と内調がタッグを組んで、不都合な真実をもみ消しにする。それは実力行使ではなく、ネットサポーターによってツイッターや掲示板でいかにもこれが真実だとばかり、隠蔽工作を謀るもの。野党や反対勢力に対してだけでなく、ちょっとデモに参加しただけで公安の調査が入ってしまう恐ろしい図式になっている。かつては暴力団を使っての実力行使が描かれたものだが、現代ではちょっとしたことで左遷、解雇、この映画では記者の“誤報”に当たるのだろう。そしてネットで炎上させ、何も言えなくなる仕組み。あの偽情報、謀略報道なんてのは内調の人間本人がやってるのかもしれないし、いざとなったら共謀罪で摘発しようなどとも企んでいるのかもしれません。ハリウッド映画のように衛星や監視カメラなど高度なコンピュータ技術を使ったりせず、かなりアナログな雰囲気でじわじわと恐怖を感じさせるのも上手かった。