「娯楽映画として見たら面白い」人間失格 太宰治と3人の女たち 権太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
娯楽映画として見たら面白い
太宰治の映画ということで気になっていたので見てみた。結構面白かった。
実際の太宰治がどうだったのかは、残されている情報以上の事はわからない。だが、本作ではそれなりのクズ男として描かれているのだが、小栗旬のルックスのおかげでギリギリ不快さを感じず、「こいつ、マジでクズwww」と思うくらいで済んだ。最後まで見ることができた。
けれど、太宰治は他人に求められるまま、その人が求める姿を真面目に演じてしまっていただけだったのではないかと感じた。
坂口安吾(藤原竜也)からは「とんでもない才能のある人間」。堕落しきって死んでしまう強い人間。
身重の妻(宮沢りえ)からは「傑作を書く事」。家庭を犠牲に傑作を書けると応援(恨み節)を聞かされる。
愛人1号の静子(沢尻エリカ)からは「名声と愛人のステータス」。私とあなたの子どもの名前を作品に記載し、生きた証をちょうだいと頼まれている。
愛人2号の富栄(二階堂ふみ)からは「死」。愛も恋ももらえないなら、あなたの命奪ってあげると言わんばかりに依存している。
世間からは「面白い作品」。次はどんな面白いものを見せてくれるんだろう。人間の太宰治すらも娯楽として消費している。
太宰治は、これらにプレッシャーを感じ、俺って何なんだろう?何やってんだろう?と孤独に悩まされる。誰もわかっちゃくれない。
太宰治本人は安吾には「友情」を、妻には「愛」を感じていたのだろうけれど、それでは駄目だった。普通の人間では傑作を書けなかった。だから、愛人二人に「恋」をする事で都合よく利用してるつもりだったのだろう。
結局、太宰治本人は振り回しているようで、周りに振り回されていたのではないか。流されて流されて、最期は死のうとした。けれど、川の中で藻掻き、生きたいと願ったのに、運悪く命を落としましたというオチ。
人生を捧げた事で、ようやくこれは傑作だとして『人間失格』が評価された。そのように感じるストーリーで、なんとも皮肉だと思った。
俳優陣の演技も良かった。
小栗旬は筋肉質で太宰治っぽくないというコメントを見たが、ガリガリひょろひょろすぎたら、あの映像美に負けていただろう。だから、ビジュアルは納得だった。女にとってのクソ野郎としての演技も自然で、自分勝手で核心を突かれたらヘタレるのも妙にリアルだった。
沢尻エリカは演技が良くないというコメントも見かけたが、いい愛人らしさを出していたと思う。恋と名声に執着し、情緒不安定な感じがよかった。
宮沢りえは「妻としてどうしようもない夫を支える」女だった。子どもに「お父さんは仕事してる、女と。」と言われて、涙にくれる描写は本当にリアル。
二階堂ふみは演技が自然で見ていてぞわぞわした。太宰治に依存した挙げ句、メンヘラ化して、一緒に逝こうと囁いてくるのが怖かった。妻と愛人1号に与えられた愛と恋は手に入らないと知り、命を奪おうとしてくる。
俳優陣の演技がすごいというのは見てもらえばわかる。
美しい映像と表現、俳優たちの演技のおかげで、太宰治と女達のドロドロした雰囲気を軽い気持ちで楽しめる。重厚感があまりないので逆に面白かった。娯楽映画として見て楽しむのが良いだろう。