「罪深き“傑作”」人間失格 太宰治と3人の女たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪深き“傑作”
後世に数々の名作とその名を遺しながらも、破滅的な生きざまで身を滅ぼし、最後は入水自殺した異端の作家、太宰治。
彼が死の直前に発表した最高傑作で、自身をモデルにしたという『人間失格』。
その誕生秘話を、太宰と正妻、2人の愛人との関係を絡めて描く。
尚本作、実在の人物や作品が多く登場し、史実が基にされているが、全て忠実ではなく、フィクション入り交じり、ノンフィクション×フィクションとして見るのが正しい。(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』的な…?)
また、自分は太宰の作品は中学か高校の授業で興味を持ち、『走れメロス』と『人間失格』を少~しかじった程度。
以上の事を踏まえ、感想を。
一応、文芸作品の類いには入る。
でもそうだと手に付かず、敷居が高いように感じるが、そこは蜷川実花。
さすがにこれまでの作品ほどの鮮烈インパクトやビジュアルではないにせよ、明暗の美しい映像、レトロな中にも現代的センス感じる美術や衣装…。
文芸作品らしい雰囲気を醸し出しつつ、音楽などポップでコミカルでファンタスティックさも。
もはやこれらは専売特許。れっきとした“THE蜷川実花ワールド”になっていた。
豪華キャストも蜷川実花作品の特徴。
もし日本バカデミーが権威ある賞だったら、間違いなく狙っていただろう。が、残念ながら日本バカデミーにはそんな価値は無いが、小栗旬が太宰治役を熱演。
表向きは派手に振る舞い、内面は惨めで苦悩だらけ、ラブシーンや吐血…。
『花より男子』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂️パラダイス~』での王子様役が好きな女性ファンはショックを受けるだろう。
が、実際は役幅広い実力派なのだ。
“3人の女たち”を見る作品でもある。
正妻の美知子。夫が他の女と関係を持っている事を知りつつも、尽くし、3人の子供を育て、『ヴィヨンの妻』のモデル。作家の妻の鑑と巷では言われているが、その本心は…。決別してでも傑作を書くよう鼓舞する。宮沢りえが女の悲哀を滲ませる。
愛人の一人、静子。『斜陽』執筆の際資料を提供し、そのモデル。愛人でありながら太宰の子を産む。さらには『斜陽』に自分の名を載せる事を要求。女の強かさ。公開中に不祥事が発覚し問題になったが、つくづく沢尻エリカの才能が惜しい。
もう一人の愛人、富栄。彼女だけ小説のモデルになっておらず、子供も産んでいない。それが引け目だからか、太宰への偏愛は強い。太宰の為だったら死んだっていい。そう、彼女こそが…。二階堂ふみが狂おしい愛を体現。パイオツ見せる大胆なラブシーンも披露!
他キャストでは、太宰の担当編集者役の成田凌が印象残る。
作品は賛否両論。
しかしこれは、太宰治という人物にとっては正しい評価だろう。
そりゃあ誰だって太宰治の生きざまには共感出来ない。
妻と子供たちが居ながらも、愛人と関係持つ。その愛人が妊娠したら、別の愛人へ。
人間は恋と革命の為に生きている…と、ギザったらしく言う。愛だの恋だの、お前が言うか!
病魔に蝕まれるほど、酒や煙草。
責任感も反省の色も無く、卑しく、自身過剰の時もあれば激しく落ち込み、子供のように泣きじゃくる事も。
正妻や担当編集者の苦労も分かる。
が、当時の大作家や文芸批評家には忌み嫌われようとも、作家としては異端の天才。
共感までは行かないが、こういう人物はその生きざまや才能も含め、どの世界/ジャンルに於いても不思議と人を魅了し、惹き付ける。
だが、作品としては…。
作風は蜷川実花ワールドだが、作品自体もいつもながらの蜷川実花作品。
つまり、ビジュアル推しで話にそれほど深みを感じられず。
脚本の早船歌江子は3年の期間と緻密な史実リサーチをかけて書き上げたらしいが、ちと何を書きたかったのかイマイチ伝わって来ず。…いや、脚本は悪くないが、蜷川実花のビジュアル演出とソリが合わなかっただけか。
主題である『人間失格』誕生秘話も終盤にようやく語られるだけで、それまでほとんど触れられない。
もしかしたらそれまでの破滅的な生きざまが伏線となっているのかもしれないが、個人的には今一つピンと来なかった。
太宰治の史実を基にしたオリジナル作品という意欲は買うが、延々とキャストの絡みと蜷川実花のセンスを見せられるPVチック。
恥の多い作品とまでは言わないが、“傑作”になり損ねた事が罪深い。
おはようございます。
↓
ミニシアターエイド。拡散したり、応援もしてあげて下さい。ボクもやります。
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid