「芸のぉ〜ためならぁ〜女房も泣かすぅ〜♪ …ならぬ、女を泣かすのは単にだらしないだけ!」人間失格 太宰治と3人の女たち kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
芸のぉ〜ためならぁ〜女房も泣かすぅ〜♪ …ならぬ、女を泣かすのは単にだらしないだけ!
まぁ、面白かった。
冒頭、海からあがってきて「あ〜死ぬかと思った…」と小栗=太宰が言うところが、正直一番面白い。
後は、只ただ太宰のクズぶりを格好よく描いていく。
「実話に基づいたフィクション」とは、危険なもの。
実話だと思い込んでしまう人と、事実と異なると憤る人が出る。
フィクションだと断れば何でも許されるというものではない。
太宰治という稀代の文学者を題材にする責任は、わきまえねばならない。
とはいえ、太宰に思い入れ皆無の自分には、まぁまぁ楽しめた。
太宰フリークには申し訳ないが、女にだらしない天才という男のファンタジーとしての面白さはあった。
色男でクズな太宰治に小栗旬がはまっていて、山崎富栄(二階堂ふみ)が口説かれていく様に、そりゃしょうがない…と思えた。
少女顔の二階堂が、太宰に堕ちていく女の苦しさを体当たりの熱演で魅せる。
そして、入水心中前の二人の会話シーンでは持ち前の愛くるしさで笑わせる。
妻役の宮沢りえが「私たちを壊しなさい」と太宰に迫るシーンは見せ場だが、そもそも太宰の創作の苦悩が描かれていないので活きてこないのが残念。
子供たちと青インクでふざけ合う場面は、女絡みで悔しさと情けなさが溢れる泣きの場面で、胸に迫る。
太田静子を演じた沢尻エリカは、序盤では、30歳を過ぎても好きな男に逢いたい気持ちを抑えられない女の可愛さをハツラツと演じている。
「恋が悪いなら、不良でいい。元々不良が好きなんだから。」と啖呵を切る姿は凛々しい。
実際にあった(とされる)出来事をなぞり、坂口安吾(藤原竜也)や三島由紀夫(高良健吾)との議論の場面などを挿入してはいるが、文学論は表面的で中身がない。
井伏鱒二は出てきもしない。
戦後の混乱や荒廃感はなく、むしろ大正浪漫的な雰囲気もあって時代感覚が曖昧。
台詞もほぼ現代語。
いっそもっと現代的にしてしまって、ファンタジー性を強調した方が良かったのかも。
デカダンスの中で男女のサガを描きたかっただけなら、竹久夢二でも良かっただろうし、太宰治でなければならなかった訳ではない…そんな映画だろう。
蜷川実花のビジュアリストとしてのセンスは、やはり目を見張るものがある。
全てのカットが絵画的に美しい。
いつもより原色ギラギラの場面を抑えているのが、効果をあげている。
やっぱりギラギラには程よさが必要。
父君蜷川幸雄は映画に手を出さなければ名声にキズをつけることもなかっただろう。
写真家実花の映画製作の方は、一定の価値が認められると思う。