「イーストウッド久々のはまり役」運び屋 superMIKIsoさんの映画レビュー(感想・評価)
イーストウッド久々のはまり役
クリント・イーストウッドって人は映画監督としては超一流で、なんでこうも傑作ばかり作れるんだろうと不思議に思える位物凄いお方です。しかしその反面、俳優としては大根もいい所で困ったもんでした。理由は表情に乏しく、喜怒哀楽が顔に出ないからです。だからニヒルで無表情な役はそのままでもとてもハマって見えます。昔のマカロニ・ウエスタンやダーティ・ハリーなんかはその好例です。しかし表情を必要とするシリアスな作品では、それはそれは酷いことになります。
ということで本作はイーストウッド主演と聞いて、即見る気が伏せました。だから劇場では見ず、WOWOWで放映されたので暇つぶしに見た程度でした。
しかしこれは大誤算でした。この主人公役はもう彼以外はあり得ない程のはまり役なのです。あの無表情さが年齢を重ねて怖い物無しの老人役にピッタリなのです。実際役通り90歳近くになったイーストウッドは痩せて背中も曲がり始めて、外観もこの役のままになっています。まさに演技をする必要もなく、彼自身をそのまま演じれば良いのです。
ストーリーもこの手のクライム物とは全く違う人間ドラマになっていて、若いチンピラギャングが慌てふためくようなハラハラする場面も、主人公の年齢からくる落着きで全て交わしてしまうのです。それはもう滑稽な程です。
周りから邪魔者扱いされ、家族にも見捨てられた主人公がギャングの麻薬の運び屋という仕事を得、徐々に信頼を勝ち得て、遂にはギャングの大ボスにまで気に入られてしまうという下りは全くお笑い物です。
特に本作の優れているところは、随所に主人公の人生哲学が散りばめられているところでしょう。またそれを演じるのが同年代のイーストウッドだからこそ言葉に重みがあります。その90歳の主人公でも自分の元妻の死に立ち会って初めて、この世の中で何が一番大切なのかを学ぶことになります。それはとても感動的なシーンになっています。
本作はテーマの重さも含めて、クリント・イーストウッドの演出・演技の集大成といっても過言ではありません。まさに名作の域に入っている傑作だと思います。