「運び切った生きざま」運び屋 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
運び切った生きざま
前作も実話、次回作も実話。
ハリウッドの生き神様にして、すっかり実話の名手となったクリント・イーストウッド。
本作も実話だが、特別感が。
『人生の特等席』以来6年振り、自身の監督作では『グラン・トリノ』以来10年振りに主演。
俳優業は半ば引退して監督業に専念…と思いきや、やはり“銀幕スター”なのである。
そんなイーストウッドが役者復帰を決めた実話の内容は…
90歳で麻薬の運び屋となった老人。
NYタイムズ誌に掲載された驚きの記事をベースにしたクライム・ドラマ。
まるで「世界仰天ニュース」か「アンビリバボー」のような話自体にも興味惹かれるが、久々の“役者イーストウッド”に尽きる。
イーストウッドが演じる役柄は、言ってしまえばほとんど似たり寄ったり。
頑固、偏屈、孤高。
己の生き方を貫き通し、かなりの確率で家族と疎遠。
本作も例外に漏れず。
デイリリー栽培の仕事一筋。園芸界では人気者の有名人。
が、家庭を顧みず、娘の結婚式にも出席せず。元妻や娘に心底嫌われているが、孫娘だけは唯一の味方。
散々好き勝手やって来たしっぺ返しか、馬鹿にしていたインターネットに負け、失職。仕事も家族も失う…。
そんな時、人生の晩年で一大事。
出席した孫娘の結婚式で、とある青年から何かを運ぶ仕事の話を持ち掛けられる。
軽い気持ちで引き受け、巨額の報酬にびっくり!
それが麻薬とは知らずに…。
ファミリー・マンとしては失格。口も悪く、時々差別的な発言も。
ろくでもない男でダメ人間かもしれないが、何故か憎めない。
性格自体は気のいい爺さん。孫ほど歳の離れた新しい仕事仲間ともすんなり打ち解ける。
マイペース。運びの仕事中も呑気に歌を歌ったり。
道中、パンクした車を見掛けたら手助け。
保安官に止められても年の功でやり過ごし、時には麻薬カルテルのお目付け役やDEAすら振り回す。
ルールに従わず、カルテルを苛々させるが、仕事はきっちりやり、ボスには気に入られる。
パーティーに呼ばれ、若いセクシー美女とイチャイチャ。
う~ん、人生楽しんでる!
イーストウッド自身も楽しそうに演じているのが見てて伝わってくる。
ある時、遂に積み荷が麻薬である事を知る。
さすがに動揺するが…、それでもこの仕事を辞めない。
どんな仕事であれ、まだまだ仕事を出来る事が男として誇りを感じるのだろう。
巨額の報酬も魅力なのだろう。
でもそれ以上に、家族。得た報酬で家族に大盤振る舞い。
失った関係や時を、今お金で必死に埋め合わせしようとする…。
しかし、やってる事は違法。DEAが本腰を入れて動き出す。
やり手の運び屋の存在を知るが、なかなか網に掛からない。
素性を知らず、ある時顔を合わせる。
DEA捜査官役のブラッドリー・クーパーがいい役回り。
ここ数年のイーストウッドとブラッドリーの師弟関係が何だかいい。
『アメリカン・スナイパー』では監督と主演、『アリー スター誕生』では企画を引き継ぎ、そして本作ではいよいよ初共演。お互いの身の上話をするシーンがしみじみさせる。
順風満帆だった仕事にも暗雲が立ち込め始める。
ボスが変わる。変わった経緯は…、つまりそういう世界。
これまでのマイペースが通用しなくなる。ルートもルールも命令も時間も全て厳守。もし、破ったら…。
しかし、これがかえって逮捕の近道に。
ルートも時間も厳守という事は、マークされ易くなる。これまでのマイペースの方が予測出来ずにマークされ難かったと言うのに…。
そして、孫娘からある報せが。元妻が余命僅か。
駆け付ける事が出来るのなら今すぐにでも駆け付けたい。
が、今運びの真っ最中。厳守しなかったら…。
再び家族を失うのか。
選んだのは…、言うまでもない。
最後に行き着く先は、家族。
最期のひと時とは言え、元妻と過ごせた蜜月の時間。
12年もろくに話していなかった娘との和解。この娘役がイーストウッドの実娘で、何だか説得力とリアリティー有り過ぎ。
運び屋稼業も遂に終わる。
逮捕。以前、素性を知らず顔を合わせた捜査官との“再会”…。
裁判。判決。
が、男は、末路も実刑も全て自ら受け入れる。
自業自得。罰を受けて当然。
でもその代わり、欠けがえのない家族を取り戻せたのだから…。
もう人生終盤と思った爺さんの思わぬ現役バリバリ。痛快なコメディ調。
DEAや麻薬カルテルとのやり取り。スリリングなクライム・サスペンス。
一人の男の山あり谷ありの生きざま。
そして、贖罪と家族愛の物語に、最後は胸打たれた。
道外れを行き、寄り道ばかりして来たが、最後に運び切った人生。
『ハドソン川の奇跡』『アメリカン・スナイパー』も見応えあったが、ここ数年手掛けた作品の中ではBESTってほどではないが、一番愛着沸いた。
それもこれも奇想天外な実話ならではの面白味もあるが、ユーモアも哀愁も感動も滲ませるイーストウッドの佇まいと魅力。
老いても尚。…いや、老いを迎え入れない。
すごい衝撃ニュース!!
ありがとうございます。
面白そうですね、というか陪審員の2号が、
とても複雑な行動をするみたいな、社会性のある
物語りみたいですね。
とても楽しみですね。
ワクワクします。楽しみにしています。
ありがとうございます。