劇場公開日 2019年3月8日

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「愚かな男の成れの果て」運び屋 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0愚かな男の成れの果て

2019年4月16日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

・もっと楽しめ…
あんたは楽しみすぎだ。その結果が今のあんただ…
・仕事は2番でもいいが、1番は家族でなきゃならない…
・家では役立たずだったから、外では認められたかった…
・金がいくらあっても、時間は平等に過ぎていく…

切ない物語。

彼は彼なりに必死に生きてきたはずだが、
家族の不満を省みなかったことの痛いしっぺ返しにあう。
気づきかけた時には、もう過ぎた時間は取り戻せない。

老年・壮年の男には、遠からず共感するところがあるのではないだろうか。
仕事、あるいは仕事上の付き合いを優先することを正義だと思ってきた男たち。
自分もそうだった。それが家族を養うためだと言い訳をしてきた…
最近は、自分中心で家族を省みない男はいても、家族より仕事を優先する風潮は薄れていると思うが。

元妻の最期に付き添ったことで、元妻の主人公への思いを聞くことができた。
詫びることもできた。
母の思いを知って、疎遠だった娘も許してくれた。
その矢先、遂に犯行の終焉を迎えるのだが、やっと戻りかけた家族との絆がこれによって再び瓦解するのかと思いきや、娘と孫は変わらない愛情を示してくれた。
他人ではないからこそ、許せなかったり強く結ばれてたりするのだなぁ。

老人は、危険な犯罪に手を染めていく中で、自分の過ちに気付いていく。
それは犯罪のことではなく、家族をないがしろにしたこと。
ある意味、命を懸けて元妻の病床へ駆けつける。
娘に感謝祭に招待され、嬉しかっただろうが、組織に殺される覚悟はできていた。
娘との約束をまた破ることになるが。

ブラッドリー・クーパー演じる捜査官の執念の追跡が、結果的に老人を救うことになる。
「あんただったのか…」

絶妙な物語構成。

運び屋を始めてから回を重ねていく物語の序盤は、ヤクザ者たちとの掛け合いも含めて軽妙なコメディのようで、可笑しい。
貫禄がついてきたアンディ・ガルシアに女をあてがわれて「楽しめ。だが無理をするな」と気遣われたりする。
捜査の手が伸びていることに老人が気付いくあたりから、組織のボスの転覆劇もあって、緊張感が出てくる。
家族との関係を示す場面が何度か挿入され、老人の心理の変化を微かに表現している様だった。

背中が若干丸まったクリント・イーストウッドを見るのは辛い面もあったが、銃を突きつけられても「俺は朝鮮戦争に行ったんだ。そんなものは怖くない」と平然としているようで怯んでいるようにも見える演技は、いぶし銀だ。

刑務所の花壇に花を植えるイーストウッドの姿は、決して好き放題に生きてきたわけではないが、数々の分かれ道で選択を過ってきた男の成れの果てなのだが、残された時間が少ない老人の憐れと安息が同居しているように見えた。

kazz