劇場公開日 2019年11月8日

「日本的な不穏さ」アースクエイクバード andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5日本的な不穏さ

2019年10月29日
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鑑賞方法:映画館

東京国際映画祭にて。

「アースクエイクバード」= Earthquake bird, 即ち直訳すると地震鳥。地震の後に鳥の鳴き声が聴こえる、というシーンで登場するが、鳥って地震の前に異常に鳴くものじゃないのか。逆転現象である。
原作者はスザンナ・ジョーンズ。Wikipedia英語版によれば「能を通じて日本文化に興味を抱き」大学卒業後日本へ「JETプログラム」で来日し英語を教え、トルコで2年間過ごした後、日本の千葉に在住し働いた、とある。その後東京に住む。
彼女のデビュー小説であり、2001年度英国推理作家協会賞最優秀新人賞受賞作が「アースクエイクバード」、本作はその映画化である。
舞台は1989年の東京である。撮影場所は間違いなく現代の東京だが、そう見せないような撮影的配慮がなされている。
主人公ルーシーが、リリーという女性の殺害容疑をかけられるところから始まり、警察でのやり取りとともに話は過去に遡る。
街を歩いていて突然、謎の男・禎司に写真を撮られ、恋に落ちるルーシー。ルーシーは全く隙を見せないというか、自分を隠す女性であり、対して禎司は英語が喋れるところからして全く謎である。表情が読めず、台詞は概ね謎めいて気障。そこに天真爛漫なリリーが絡み、やがて人間関係の綻びと悲劇が訪れる。
ルーシーは極めて堅物な印象を与え、瞳の昏さが背負ったものを感じさせる、ある意味極めて分かりやすい女性だ。対して小悪魔的なのか天使なのか、両面の貌を見せるリリー。アリシア・ヴィキャンデルの硬さと昏さ(笑顔さえ寂しげである)、ライリー・キーオの奔放さと繊細さが見事に対比される。
そして謎の男・禎司。こいつが曲者である。オーディションでこの役を獲得したのは小林直己、EXILE系の人という印象しかなかったが、なるほど極めて日本人的容姿を持ちつつ身長がでかいという、理想的な存在感である。思わせぶりな感じや表情も非常によく出ていると思った。あとやっぱりダンスが上手い。
3人が佐渡に旅行に行くあたりから物語は不穏に動き始める。それまでも不穏な伏線というか前兆は散りばめられているのだが。そして驚愕のラストへ...と言いたいのだが。
原作を読んでいないのでなんとも分からないのだが、事件の結末とルーシーの過去、その他幾らかの謎は明かされるものの、肝心のところは五里霧中で終わる。
細かいところは不明だが、おおよそ予想はつく上、それを敢えて描かないことで主人公の葛藤や解放を際立たせたつくりになっているともいえるのだが、典型的な推理小説的なものを期待すると「え、ここで!終わるの!」となる可能性がある。これも日本的な「間」であろうか...。
日本の風景と日本間の画、新宿の街、佐渡の海、金山、鬼太鼓。美しいというよりどことなく不穏さと寂しさを感じる。主人公が友人と奏でる弦楽四重奏が「死と乙女」の1楽章なのもどことなく不穏である。横溝正史ワールドを平成初期に移して現実感を増した感じといおうか。外国映画にありがちな奇異さはなく、そこは日本人スタッフの貢献もあるのだろう。
しかし佐久間良子あれだけしか出てこないの?! それにいちばんびっくりしたよ...横溝正史インスパイアなのかしら...。「病院坂の首縊りの家」に出てるし...。

andhyphen