「その女王たち、悲劇無くして王冠戴けず」ふたりの女王 メアリーとエリザベス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その女王たち、悲劇無くして王冠戴けず
16世紀英国。王位を巡って対立した2人の女王。
スコットランド女王メアリーと、イングランド女王エリザベス。
軽く検索しただけでも関連作品が幾つも並ぶほど、これまで何度も映像化されている。
とは言え、イギリスの歴史劇。なかなかに馴染み易いものではないが、ケイト・ブランシェット主演『エリザベス』でも触れられ、映画を見ていれば一度は何処かでお目に掛かっている。
フランス王と死別し、メアリーがスコットランドに帰国した所から話は始まる。
当時のスコットランドはエリザベス女王の支配下にあったが、スコットランド王とイングランド王の血を引くメアリーは、正統なる後継者として王位継承を主張。
一つの王国に2人の女王。
無視は出来ない、お互いにとって目の上のたんこぶのような存在…。
一方は取り入ろうとする。
一方は丸め込もうとする。
政略や権力、さらには男との色恋までも用いて。
が、巧みに相手には下らない。相手が仕掛けてきたら、はね除ける。
女王のプライド、女の意地。
女のバトル!
2人の女王の複雑な関係性や対比が印象的。
若く、美しく、聡明なメアリー。
高貴な血筋に加え、健康体で世継ぎも埋める。
対するエリザベスは、もうメアリーほど若くはなく、容姿にコンプレックス。天然痘発症でそれはさらに深刻に。
複数の男と関係を持ち、何度か結婚したメアリーに対し、エリザベスは“男”として独身宣言。世継ぎも望めない。
片や自由奔放な女性。
片や女の幸せを棄てた女性。
この王位継承対立には、女としての嫉妬も見え隠れ。
が、権力の違いは歴然。
エリザベスは臣下たちを完璧に頭を下げさせている。
メアリーも臣下たちを伴っているが、反発が強い。
名実共に“女王”と、肩書きだけの“女王”。
それぞれに、持っているもの、持っていないもの。
それらが2人の女王バトルに、面白味や深みをもたらしている。
“ふたりの女王”を演じるは、“ふたりの若手実力派女優”。
メアリーは、シアーシャ・ローナン。
歴史コスチューム劇にぴったりの透き通るようなクラシカルな美貌と魅力はいつもながら、役作りに5年かけたらしく(!)、さすがの複雑な感情/苦悩の演技。
エリザベスは、マーゴット・ロビー。
嫉妬や、シーンによっては怪演レベルの体現。キュートなビジュアルばかり注目されがちのマーゴットだが、その魅力や美貌を捨て、実力を存分に発揮。
メアリーもエリザベスもこれまで名だたる名女優たちが演じているが、一切引けを取らない堂々たる熱演。
単なるドロドロ愛憎劇に非ず。政略や宗教絡む、骨太な歴史陰謀サスペンスでもある。
とりわけ、周囲の男たち。
彼女たちを愛し、忠誠を誓ってると一見思いきや、虎視眈々と女から権力の座を奪おうとする男たちの醜悪さ。
メアリーは言ってみれば、いいように利用され、手駒にされたようなもの。
臣下や肉親に裏切られ、我が子と離され、悲劇の女性でもある。
そんな彼女が最後に頼ったのは…、同じ女で、同じ女王。
従姉のエリザベス。
終盤、遂に初対面。
カーテン越しに向かい合い、なかなか顔と顔を合わせない“タメ”と、愛憎だけじゃない様々な感情交錯し合い、シアーシャとマーゴットの迫真の熱演も相まって、見事なまでのハイライト。
男たちの裏切りと陰謀渦巻く宮廷で、権力の座につく2人の女。
手を取り合っていたら…。
イングランドとスコットランドが一つになったら…。
最初から、“友”として“従姉妹”として分かり合っていたら…。
それは、夢や理想でしかなかったのか…?
ラストは史実通り。
メアリーはエリザベス庇護の下幽閉された後、エリザベス暗殺関与に携わった罪で、死刑。
悲劇だが、メアリーに感情を抱きつつも刑を命じ、孤高の女王となったエリザベスも悲劇的。
が、せめてもの救いは次世代に。
2大若手実力派女優の熱演。
ただの対立だけではない複雑な感情、ドラマチックに交錯したそれぞれの運命。
女たちのドラマ、男たちのドラマ、エンタメ性と歴史も学べ、思ってた以上に見応えあった。