「イメージが先行して、無理に実写化した様な感じの作品です。」ばるぼら 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
イメージが先行して、無理に実写化した様な感じの作品です。
手塚治虫先生の漫画原作でかなり古い作品を映画化で何故今になってこの作品を映画化したのかが謎ですが、とりあえず面白そうな感じで観賞しました。
で、感想はと言うと、う~ん…
世界観は悪くないと思うんですが、全体的にアンニュイな感じでイメージを大切にして作った事が最優先し過ぎている。
好みがあるので、あくまでも一意見でしかありませんが、実写に向いていない作品をイメージを意識し過ぎて、今の時代に合わないのに無理に合わせた感じの作品と言うのでしょうか。
また、結構ジャズのBGMを入れる割合が多い。ここまで入れるとイメージがどうのと言うのを越えて、盛り込み過多過ぎます。
ばるぼらは「都会が何千万という人間をのみ込んで消化し、たれ流した排泄物のような女」と説明されているが、正直そこまでじゃない。
作品が発表された1970年なら、そういう感じに写るかも知れないけど、今ならばるぼらよりも酷い奴は沢山いるし、夜の新宿や大阪の難波とかの繁華街では結構見かけますw
ばるぼら役の二階堂ふみさんは様々な作品に出演されていて緩急自在な女優さん。
最近では「翔んで埼玉」の壇ノ浦百美役が最近でブッ飛んでますが、今作ではそこまでブッ飛ん出ない。
本来はもっと過激で卑猥でクズ。それでいて純粋で脆く折れそうな儚さも兼ね備えていても良いのでは?と思うんですよね。例えて言うなら「ドラゴン・タトゥーの女」のリスベットみたいな感じと言うのでしょうか。
そこの突っ込み具合が薄い。単にミステリアスに仕立て上げて神出鬼没過ぎるので、結構都合良く解釈されているかな。
美倉洋介役の稲垣吾郎さんは多分原作のイメージ通り。ただずっとサングラスを掛けていたりするのが原作のイメージを踏まえているとは言え、これが弱視とかの追加設定があれば問題無いのだけど、少し違和感を感じる。
また急に幻覚に悩まされて、マネキンや犬を女性に思い込んでセックスすると言うのは異常性欲と言うよりもかなり病んでいる。これが覚醒剤などをやっているからと言うのならまだ理解出来るが、単に異常性欲と言う括りだけで片付けて良いのかがちょっと疑問。
最近は元の方も含めてジャニーズ系の方々は何かと身体張って頑張ってますw
ばるぼらの母親的な役柄になるムネーモシュネー役の渡辺えりさんのビジュアルはあれで良いのだろうか?
過度にコミカライズされていて、解釈が難しい役になりすぎています。
ストーリーはある程度原作に沿っているんですが、突散らかした感があって、まとめが薄い。
美倉の創作意欲を掻き立てるミューズがばるぼらと言うのは良いんですが、ミューズと言う表現が用いている割に美倉の書く小説の内容の説明が無い。
これでは、執筆活動への意欲を盛り上げてくれるばるぼらを俺のミューズと言う言葉に当て嵌めているのが、なんか小っ恥ずかしい感じで妙に浮いている様にも感じるんですよね。
また黒魔術なんかも入れているので、何処に振り切るのかが中途半端だし、振り切ってない。
ばるぼらは天真爛漫で自由と言うのは良いにしても、時折見せる女性らしさの箇所がなんか間違っている。
美倉とばるぼらが一緒に逃げようとし、途中、車の故障で山を歩く際にばるぼら「疲れた」と言う台詞はすごく女の子っぽいんですが、ここで出すにはなんか違う感じだし、石に頭をぶつけ、血が出ても「へっちゃらのへ」と言う言い回しも愛嬌があると言えばあるんですが、ここでばるぼらの可愛さを出すのはなんか場違いな感じ。
また、飛び込んだ無人の山荘で石に頭をぶつけた事が原因(様に思える)で亡くなったばるぼらですが、ムネーモシュネーの黒魔術の呪いにも感じて、結局何処に解釈を持っていけば良いのかが解り難いんですよね。
ラストも原作ではきちんと描かれているのに、どうにもアンニュイな終わり方だし。
今更ですが、手塚治虫さんの作品って、映像化の向き不向きがかなりあると思っています。
アニメならまだしも実写化は結構難しい。
特に手塚治虫さんが亡くなられた以降の実写作品はちょっとその遺産を食い潰している様にも感じるんですよね。
手塚治虫さんの作品で個人的に好きな作品の「きりひと讃歌」は見応えがあって、実写に向いている様にも見えますが、“じゃあ、実写化するに相応しいか?”と言えばNO。
いろんな部分での表現や解釈が映像化するには難しいし、劇中で描かれている差別なんかも倫理を意識するとテーマがブレると思うんですよね。
それと同じでこの「ばるぼら」は正直実写化に難しい作品。
今の時代に合っているかどうかと言うよりも、実写に向いている様で実写にしてはいけない作品かな。
監督の手塚眞さんは手塚治虫さんのご子息で、様々な作品も手掛けられていますが、今作ではご自身の「ヴィジュアリスト」と言う肩書きに引っ張られる感じでやりたい事が先行し過ぎた感じがします。
「ばるぼらは天真爛漫。猫の様に気まぐれでミステリアスだけど、何処か人の目を引きつける魅力がある。」で良いじゃんと思うし、原作の雰囲気に大幅に引っ張られまくっている分、損をしていると思います。
あくまでも一意見でしかありませんが、結構期待していたのでちょっと肩透かし。
でも、何の気なしに観ると味と毒気のある不思議な作品かとは思いますので、興味があれば、書いた事は戯言程度に考えてもらって、ご鑑賞頂ければと思いますw