「あの日あの時、守りたいもののために。」Fukushima 50 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
あの日あの時、守りたいもののために。
Dolby-CINEMAで鑑賞。
原作(門田隆将「死の淵を見た男」)は既読です。
2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災発生―
高校2年生だった私はその瞬間、部室で仲間とおしゃべりに興じていました。関西地方でも震度2か1の揺れを観測したはずですが、全く気づいていませんでした。部室のドアがガラリと開いて、顧問の先生が顔を覗かせました。
先生は、「今揺れへんかったか?」と私たちに訊ねましたが、何も感じていなかった私たちは「知りません。全然気づきませんでした」と応え、また元のおしゃべりに戻りました。いつも通りの日常の真っ只中にいた私たちは、しばらく経ってから再び顔を出した先生の一言に度肝を抜かれることになりました。「東北がえらいことになっとるぞ!」―
大急ぎで部室のテレビをつけた私は、画面の中で繰り広げられている光景に息を呑みました…。凄まじい濁流が海辺の街を飲み込み、漁船がまるで木の葉のようにくるくると波に弄ばれていました。到底現実とは思えない光景に目を奪われていると、「津波や…」と先生が呟きました。
帰宅を促された私たちは急いで家に帰りました。母と祖母はまだ何も知らない様子でした。「津波や! 津波!!」と血相を変えて帰宅した私を困惑の眼差しで出迎えたふたりでしたが、テレビ画面に映し出された光景を観て、先ほどの部室での私のように言葉を無くしてしまったようでした。
東北地方太平洋沿岸地域の被害が甚大なのはもちろん、東京でも交通網の麻痺による帰宅難民が発生している様子に、この地震がこれまでに前例の無い災害であることを実感させられました。やがて、東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生したと云うニュースが流れ、原子炉建屋が水素爆発を起こした瞬間の映像に「いったい日本はどうなるんや…?」と、この国の滅亡を予感したことを鮮明に覚えています…。成す術が無い状況に焦燥し、どうすることも出来ないもどかしさに正直怯えました。日常が崩れ去る音が聴こえた気がしました。
―本作を観て、9年前の記憶がまざまざと蘇って来ました。
前置きが長くなりました。
絶望的な状況において、最悪の事態を回避しようと原発内で奮闘した人々がいたことを、決して忘れてはならないなと思いました。あの時、報道された事柄の裏側で何が起きていたのか、理解出来ていなかったことを痛感しました。
決死の覚悟で過酷な戦いに身を投じた彼らのことを、海外メディアは"Fukushima 50"と呼び、その行動を称えました。彼らは何故、放射能汚染による命の危険があると分かっていて、尚も原発に留まることを選んだのか…? 職業意識からの使命感? 事故を起こしてしまったと云う罪の意識? ―それだけでは、ここまでのことは出来なかったのではないか?
もしかすると、日本を守るため、故郷を守るため、何よりも愛する人を守りたいがための行動だったのかもしれない、と思いました。否、そんな単純な感情だけでは無かったのかもしれません…。言葉では言い表せないほどの、その状況に置かれた者でないと容易には理解出来ないような、複雑で、しかし一本ぴしっと筋が通っているような何か…。とにかく揺るぎの無い強い信念がそこにはあったのだなと、強く感じました。
一号機と三号機の水素爆発、二号機原子炉格納容器の圧力上昇に伴い、若手の職員や協力企業の人々、技術畑ではない部署の人たちが吉田昌郎所長(渡辺謙)の命令で原発から退避することになりました。その際、それでも残ると言い張った若者がいた一方で、年長者でありながら退避した人もいました…。あの時の現場では皆それぞれが、選択を迫られていたんだなと思いました。それは命に関わる選択であり、下した決断に対して他者が非難することの許されない聖域だな、と…
ただでさえ過酷な現場なのに、本店や官邸からの圧力、理不尽な命令、本質を理解していない者の横暴とも思える発言など、およそ信じられないようなことが次々と降り掛かって来ました…。特に原作を読んだ時も衝撃を受けた場面が、事態終息に忙殺されている現場に、しかも被爆の危険性がある地に一国の元首が突然自ら視察に訪れ、そのせいで原子炉の冷却活動が妨げられたばかりで無く、あまつさえ放射線管理の原則を無視し、命懸けで頑張っている人々の目の前で、「私が何のためにここに来たか分かってるのか!?」とのたまう…。その視察を止めもせず現場に対応を押しつけた東電本店のやり方…。他にも、素人考えの官邸からの横槍をそのまま現場に"命令"として伝える…。防波堤にならなければならないはずの上層部が、官邸の手先であるかのように現場を混乱に陥れる…。非常事態なのに、上への忖度が無くなることはありませんでした。憤りを覚えました。現場の苦悩は如何ばかりだっただろう…
あの時あの瞬間には、人間の強さと弱さ、苦しみ、怒り、悲しみが交錯したドラマが展開されていたことを知り、涙が止まりませんでした。未曾有の大災害により、最後の砦となってしまった人々―。その運命の過酷さに、想いを馳せました…。故郷への想い、仲間との絆、大切なものを守るために死物狂いで戦い抜いた人々がいなければ、今よりももっと最悪な事態になっていたかもしれない…。感謝の気持ちが湧いて来ました。しかし、事故の影響で今も苦しんでいる方々のことを考えると、そう思ったことが失礼であるような気もしました。故郷や我が家が帰宅困難地域になってしまって、戻れる目処なんて到底立っていない状況です…。過ちを教訓にして、このような人たちを二度と出さない未来を、築き上げなければならない…
伊崎(佐藤浩市)の言葉、「俺たちは何を間違えたのか?」―永遠の問い掛けだなと感じました。誰もが考え続けなければいけない…。胸に刻まなければならないなと思いました。
※鑑賞記録
2020/04/18:Amazonプライム・ビデオ(特別配信)
2021/03/12:金曜ロードSHOW!
2子5孫さんへ。
コメントありがとうございます。
2子5孫さんのレビューも拝読させていただきました。怒りの感情がひしひしと伝わって来ました。当時の政府や東電上層部の対応には憤りを隠せません…。
Marikoさんへ。
コメントありがとうございます。
恐縮です…。
エンターテインメントとしてきちんと成立しているし、当時のことを伝える実録的な一面もちゃんも持っているなと思いました。政府関係者の名前が伏せられているところはともかくとして、告発すべきところも告発しているし、良作ですよね!
観賞菩薩さんへ。
ご覧になられましたか!
私はDolby-CINEMAの効果によって、物語のリアリティーが増強されて、より作品世界にのめり込むことが出来ました。観賞菩薩さんはいかがでしたか?
確かに様々な形のレビューが溢れていますねぇ…。本作で描かれていることは、現在進行形の出来事の端初となったことだし、震災発生から9年という微妙なタイミングでエンターテインメント映画として世に出したことに、賛否両論あるかとは思います。
だからと言って、本作を観た人それぞれが抱いた感想を真っ向から批判したり踏みにじる権利は誰にもありませんし、してはいけないことだとも思います。
なので、観賞菩薩さんの視点から感想を綴ることを躊躇われる必要は無いと僕は考えます。想ったことを言えないのはおかしいです。観賞菩薩さんの感想読みたいです。是非、ありのままの感想をお書きになって下さい!
コロナウイルスの話題ですが、尼崎市でも患者が増えていて、同時に怖いも増していく一方です。勤めている会社も時差出勤を奨励するなどの対策を講じていますが、この期に及んだらどこまで効果があるのか…。映画館に行ったり出来ないのはツラいですが、観賞菩薩さんも健康には充分お気を付け下さいませ。
しゅうへい(syu32)氏🙇…危ないとこでした😨
レビューを読み、今の現状でも映画館へ行く事を控えるのは、本作を観てからにしようと思い、直前にMOVIX尼崎から梅田ブルク7のDolby-CINEMAで観ることに切り変えました…昨夜の最終回。
観賞後、どこへも寄らず帰宅中、スマホのNEWSで「尼崎医療センターで感染者」を見てぞっとしました😱信号待ちで固まり、後車にクラクション鳴らされる始末😞
同じ地域に暮らしていても、しゅうへい(syu32)氏がお産まれになる前?かと思いますが…【阪神淡路大震災】で被災した者として、原作を読んで、本作を観た者として、皆さんのレビューに色々思うところあり…少し言わせて頂くと…福島で起きた事を冷静に検証される文面…実験結果を興味深く調べた様な文面…それらに冷徹さを感じます。
映画に対する関心からだと思いますが、まるで専門家の様に難しい問題を語られる…レビューとは言え、私もなかなか迂闊な事かけない状況かなと…書かないか?書くか?考えあぐねてます…
再々ではありますが、近隣にも増えて来たウイルスにお気を付け下さい🙇
観賞菩薩さんへ。
コメントありがとうございます。
改名しました(笑) 改めまして、よろしくお願い申し上げます。
梅田ブルク7で18:40からの回を観ましたがガラガラでした。Dolby-CINEMAということもあったのかもしれませんが…。僕の他には7人ほどしかいらっしゃいませんでした。
「デジモンアドベンチャー」は結構入っている様子でした。ロビーで待っていた人の数を考えると、ほぼ満席に近かったのではないかなと思います。あと「仮面病棟」とか(笑) 暇を持て余したティーンたちがこぞってやって来ている印象でした(笑)
梅田自体も普段よりかは少ない人波でしたが、それでもまだまだ多かったです。会社帰りの人たちを除いたら、やっぱり高校生や大学生くらいの若者たちがぞろぞろと歩いていました。
本作を観られたので、しばらく映画館に行くのは控えようかなと思っています。ウイルスは目に見えない敵故に、観賞菩薩さんも充分お気を付け下さいませ。
しゅうへい(syu32)氏🙇ご無沙汰コメント失礼🙏
しゅうへい君だったのね(笑)、私は徳が高い地蔵はずしました(笑)😅
本作まだ観に行けてませんが…映画館どんな入りでした?…2/28にMOVIX尼崎(朝9:15の上映なのでガラガラでしたが、公開初日なのに…まぁ三池監督だからね😞)行ったきりです。
ところで私も門田サンの原作既読です。TV「そこまで言って委員会」の煩い面子の中で最もまともな発言に関心をよせ、氏の著書「なぜ君は絶望と闘えたのか/本村洋の3300日」に感心し、本作の原作を読むに至りました。
2011/3/11/PM…私は東灘区でクライアントと打ち合わせ中で、同様に「今揺れませんでした?」と問われましたが、仕事を受ける事で頭いっぱいの私は「…さあ?…」と返し、先方が会議室のTVつけて、あの惨状に全員唖然としました…皆さん神戸の方々で、【阪神淡路大震災】が甦った顔になりました…
長くなるので、続きは観てからレビューに書きますが…遅くなりそうです😞…では、ウイルスにお気を付け下さい🙇