「福島は生きていく」Fukushima 50 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
福島は生きていく
私は福島県民である。
福島県民なら本作を気にならない人は居ないだろう。偶々初日が休みだったので観に行ったら、コロナが懸念される中大変な混み具合だった。
また、邦画メジャーの劇映画としてこの題材に真っ正面から挑んだ熱意と意欲に、まずは称賛と拍手を贈りたい。
9年前、東日本~関東の広範囲を、未曾有の大災害が襲った。
地震、津波、液状化…。
それらによる各地の被害は想像を絶するもので、中でも我が福島は、原発事故による放射能漏れという絶対にあってはならない事態が起きた。(と同時に、それと同じくらい許し難い風評被害も)
しかし、あの時あの場所に留まった人々の尽力で最悪の事態は免れ、その後の作業や除染により、福島はまたかつてのような穏やかな暮らしを取り戻しつつある…ように見える。
…が! 今も尚放射線数値が高く立ち入り禁止になっている地区があり、今も尚仮設住宅で避難暮らしを続けている人々が沢山居る。9年経っても尚…否! まだ9年しか経っていないのだ。
福島では今も、夕方の地元ニュース番組では被災者たちやそれらの事を伝え続け、天気予報の時は県内各地の放射線数値も併せて報せている。絶対、忘れてはならない為に。
それなのに、どうだ? 日本全国に目を向けたら?
今はコロナウィルス感染拡大が重大で深刻で最優先事項だが、その前は東京オリンピックに浮かれ、バカみたいな下らない芸能ゴシップばかり…。
福島や東日本の被災地以外では、もうほとんど取り上げてもいないだろう。
連日伝え続けろとまでは言わないが…、9年も経てばここまで風化するものなのか…?
やはりこの国は、東京で何か起きないと誰も真剣に向き合わず、本腰を入れようとしないのか…?
福島もこの国の一つだ。福島県民もこの国の一員だ。
今も助けを求めている人たちが居る。今も窮屈な暮らしを強いられている人たちが居る。
それを忘れるな!
東京オリンピックなんかより復興の方こそ最優先にして欲しいと思っている人々も沢山居る。
まだまだ復興が完全に終わってもいないのに、今東京でオリンピックを開く事がそんなにも最優先最重要で絶対に大事な事なのか? 予算もそっちに割かれ、それと復興が一体何が繋がるというのだ?
オリンピックで活躍する姿が復興と被災者の為になる…?
素晴らしい事を言ってるようだが、本当にそれを被災者/被災地の前で堂々と言えるのか?
勘違いするな!
脱線していきなり吠えてしまったが、さてさて作品の感想を。
実は予告編の印象では、この題材を扱いながらも邦画にありがちな湿っぽい泣きの作風になるんじゃないかと。
実際、そうでもあり。どうしても邦画は一貫してポリティカルに成り切れず。そう思うと、『シン・ゴジラ』はフィクションなのに圧倒的なリアリティーがあって素晴らしかった。また改めて、あの未曾有の大災害をゴジラに置き換えて見事描いていたなぁ、と。
そんな難点ありつつもしかし、本作は思ってた以上の力作であった。
開幕シーンは2011年3月11日午後2時46分。即ち、地震発生時の原発シーンから始まる。
自分もあの地震を身を以て体験したので、あの時の事を思い出しながら、開幕から引き込まれた。
地震が引き金となり、発生した大津波。絶対安心安全がいとも簡単に崩壊した“想定外”。
津波によって原発に異常事態。次から次へと起こる危機、大混乱、今何が起きているのか。余震も続く。そして…
ニュースで我が目を疑ったあの水素爆発…。あの映像を見た時、本当に福島にもう住めないんじゃないかと思った。
第1原発に続き、第3原発も爆発。もし、第2原発も爆発したら…? 福島県民として…いや、日本国民として知らなかったその事実に、ゾッと戦慄した。
昨年の『空母いぶき』など時々作品にムラがあるが、若松節朗監督にとっても本作は『沈まぬ太陽』と並ぶキャリア代表作になるだろう。
小難しい専門用語飛び交うが、それが実際の現場というもの。忠実に再現したという原発内の美術セットも見物。
共に実在の人物を演じた佐藤浩市、渡辺謙の熱演。特に渡辺謙は、あの時あの場所で疲労困憊、精神すり減らし、それこそ血尿が出るほど指揮を執り続け、無理を押し付けてくる東電本店と闘い続けた故・吉田所長という難役を体現し切っていた。
終始緊迫感は途切れず、と同時に感心したのは、細かい描写。
中でも、地震直後、福島では突然吹雪に。雪がちらつくシーンも再現されており、この世の終わりなんじゃないかと思ったあの時の事を尚更思い出した。
原発職員以外の人たちのドラマも。
滑稽で無能な政府や東電本店の奴ら。(役柄は別として、佐野史郎や篠井英介は憎まれ役をよく引き受けてくれた!)
職員の家族や原発のある富岡町の人々…。
私は郡山市民なので、地震以外の被害は免れたが、震災の前の年、仕事で富岡町を訪ねた事がある。遠目で原発も見た。
今でも記憶に残っている。映画のラストシーンを飾った、あの桜の通りも実際に歩いた事ある。
それらが全て…。
映画の中で言う。
「俺たちは何を間違えたんだ?」
永遠の問いだと思う。
火力も水力も風力にも限界はある。そこで日本の未来のエネルギー力と信じてこの福島に作られた原子力発電。
それが後年、福島を苦しめる事に…。
こんな事になるとは思わなかった。
しかし、想定外の事態にもっと備えるべきだった。
何を間違えたのか…?
日本の未来の為を思った事は間違っていないし、甘く見過ぎたのも事実。
この割り切れない複雑な気持ち…。
が、間違いがあったら正し、想定外の事態が起きたら立ち向かうのが、人間。
人間が自身で作り出したエネルギーで危機に陥るなんて、端から見たら滑稽だ。
立ち向かわなければならないのは、更なる原発事故阻止と放射能という背筋も凍り付く事態。
命の保証も無い。被曝も免れない。
しかし今こうして最悪の事態を免れ、福島で暮らしていけるのも、いちいち言う必要もないが、改めて言いたい。
あの時あの場所で、闘った人たちが居たから…。
今、コロナの影響で映画館へ足を運ぶのはなかなか躊躇するだろう。
が、もし足を運べたら…、
レンタルでいいやとか、福島で起きた事だからとか、もう9年前の事だとか、他県で起きた自分には関係ない事だとか絶対に思わないで欲しい。
同じ日本人として、見るべき…いや、忘れてはいけない。
あの時TVかなんかでどっかのバカ連中が、もう福島には住めないとか、福島から逃げろとか、福島というだけで風評を受けた。
そいつら全員、俺の前に出て来やがれ!!
富岡町には桜が咲いた。
私たちは今も福島で暮らしている。
福島は生きている。
近大さん 私の拙いレビューに共感していただき ありがとうございます。福島の方なんですね。
私もまだ東北が完全に復興してないのに 何故オリンピックなのかと納得出来ませんでした。近大さんの怒りはもっともです。この国は本当に東京が基準でマスコミも追従してますね。今年はこの映画で震災を風化させないように!という気概を持って作られた映画なのに、本当に残念です。
近大さん、いつも共感いただきありがとうございます。
珍しくリアルタイム上映の映画のレビューに共感いただいたので
近大さんのレビューを拝見したら福島の方だったのですね。
映画の出来はどうあれ、この映画自体は日本人なら観ておけ!!
と私も言いたいです。
私は阪神大震災の経験者ですが、仕事もあり遠方なので
福島にはボランティアにも行けず、福島産品を買うくらいしか
援助できませんでした。
せめてこの映画をヒットを助けることで福島を風化させない。
そんな思いでレビューを書きました。
映画好きにできることで何か手助けして行きたいです。
近大氏🙏お疲れ様です💫
近大さんの一文に感銘受け、観に行っていながら、迂闊な一文を書いてしまい書き直し削除で、せっかくコメント頂いたのに申し訳ありません。お詫びと共に今後も宜しくお願い致します🙇…レビューは訂正し再生出来ております。
近大氏🙇お疲れ様です✨
【同じ日本人として見るべき】の一文に胸が張り裂けそうになり、観にき行きました…春のセンバツ中止なら五輪もやめろよ!と思います。
阪神淡路大震災で被災し、身内や知人や友人、色々な思い出の数々を失いました…25年前の事ですら、昨日の出来事の様に忘れられないのに、福島で起きた事は、たった「9年前」…他人事に思えるわけありません。
被災経験者として、原作を読んだ者として、本作を観た者として、皆さんのレビューに色々思うところあります…少し言わせて頂くと…被災経験の無い人程、福島で起きた事を冷静に検証される文面、実験結果を興味深く調べた様な文面、数値や専門用語飛び交う文面…それらに冷徹さを感じますが、目の前で死に行く人、既に亡くなった人を見た被災者の前では、そんな数値や検証なんて無力です…復興が先です。
映画に対する関心からだと思いますが、まるで専門家や研究家の様に難しい問題を語られている…レビューとは言え、私もなかなか迂闊な事かけない状況かなと…書かないか?書くか?考えあぐねてます。
映画の中で2号機が爆発したら、東日本が壊滅し住めなくなるとのセリフが、さらに東京が廃墟のイメージシーンが。
この映画も、近大さんの怒るべき点があったと思うのですが、結構風評煽ってますよ。
ちなみに自分はいまだに、震災や原発事故の番組はなるべく全て見るようにしています。
私が覚えている限りでは、確か職員が2名、逃げ遅れて溺死していたのが後で発見されました。映画でもそんなシーンがありました。亡くなるシーンがリアルすぎると辛くて観ていられなくなりますよ。
福島県民としてどうでしたか?あの映画は、津波が街を飲み込む様子も、人が流される様子も全てなし。東電内と政府の中の物語に絞っているんです。街が破壊されたり停電・断水による人々の混乱ぶりも。
極め付けは、最後に病死する所長以外は一人も亡くなっていない。
それで東日本大震災の悲惨さを伝えていると言えるでしょうか?
私には専門的な知識と情報源がないので真偽の程は不明ですが、廃棄処理にはフランスの水男爵と呼ばれているような水ビジネスと廃棄業の専門企業も参入するとの話もあるようです。
もし、地下水汚染などが判明してもその頃には今の為政者はいないので、無責任な決定のようでとても不安を感じます。
あの当時の責任問題などに目を奪われているうちに、ジワジワと国民の安全が損なわれているのかもしれません。
もう少し、勉強してみます。
そしてその土は公共工事の埋立などに使われるようになったとのことですが、たぶんここでも〝想定外〟は想定されてません。当該土の上に覆土を盛るから平気、とか書いてあるのですが、地下水への影響、台風や洪水で覆土が流された場合などについての対応、廃棄業者や土木工事会社が手抜きしないようなモニタリング体制など詰めぬまま、国会でなく省令で決まったようです。
(更に続きあり)
てんこもりさんや近代さんのレビューを拝読後、風化ということがなんとなく気になって、環境省HP、その他関連記事など読んで見ました。
ここ数年の間に汚染土などの廃棄物の放射線量基準が従来の100から8000ベクレル、つまり80倍という大幅な緩和がなされていました。自治体のパンフレットによると一応の安全基準上限が8900だから安全だとのことですが、直感的に胡散臭さの方が強いです。
(続きあり)
エバさん
コメントありがとうございます♪
原発問題もまだ完全に終結しておらず、東日本大震災やその後発生した震災、昨年の台風被害、さらには今コロナ…こんなに問題山積みの中で、本当に今何が何でも開催すべきなのか疑問です。
オリンピック後、果たして日本の財政がどうなるかも不安で仕方ありません…。
haruさん
コメントありがとうございます♪
自分もあのシーンは感動しました。
若い職員たちは何の役にも立てなかった事を嘆きますが、彼らにはそれ以上に、これから大事な事がありますからね。
「脱線して吠えてしまった」という部分ですが、私も全く同じ思いです。私の地元の近くでは水害の影響で未だ復旧手付かずのところが多くあります。オリンピックに割く予算があるのならば…と本当に思います。近大さんの「吠え」を支持する人は少なくないです。
すみません、言いたいだけでした💦
凄いリアリティを感じました。福島には行った事は無いのですが、かの地から来た若者と一緒に働いた事があります。映画のなかで「お前は若い。これからの復興を支えてくれ」というセリフが彼に被って、泣けました。
ええ、忘れませんとも。一緒に未来をつくって行きましょう。