サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所 : 映画評論・批評
2019年2月19日更新
2019年2月22日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
本作が「ムーンライト」ミーツ「ラ・ラ・ランド」"と評される理由とは?
14歳の少年、ユリシーズはある日、自分の中に封印してきた女性になりたい願望を家族に咎められ、街角で出会ったトランスジェンダーのグループに誘われるまま、土曜の夜の教会(サタデーナイト・チャーチ)に身を寄せる。そこは、毎週土曜日の夜にだけ、行き場をなくしたLGBTQの人々が肩を寄せ合う、癒やしと再生の場所になっていた。
これが監督デビューのデイモン・カーダシスの実体験に基づいているというストーリーは、未だ根強い同性愛者へと差別と、同時に、だからこそ手厚いサポート・コミュニティの必要性を我々に教えてくれる。同時に、カーダシスはユリシーズの悩める日常をミュージカル仕立てで描くことで、映画全体をとても親しみやすいものにしている。
全部で6箇所登場するミュージカル・シーケンスは、主にユリシーズの現実回避の手段として描かれる。例えば、自分を虐めるクラスメイトたちが一転、バックダンサーに変身するロッカールームで、ユリシーズが「本当の僕を見て!」と歌う場面。また例えば、チャーチの仲間たちと一緒に「嘘の自分とさよなら!」と叫び合うシーンetc。逃げ場のない現実を幸せな空間に変えてくれるツールとして、ミュージックとダンスがこれほど有り難く、楽しく感じられるケースは、そう多くないのではないだろうか。この作品がそのテーマ性と手法から“「ムーンライト」ミーツ「ラ・ラ・ランド」”と評される理由はそこにある。
また、ゲイ・ムーブメントが必然的に流行を生むことにもさりげなく触れている。チャーチの連中は時々、思い思いにドレスアップしてヴィレッジのナイトクラブへと繰り出していく。そこで開催されるコンテストに参加して、自分がいかにイケているかを実感するために。彼らが競い合う“ヴォーギング”(モデルのポージングのようなもの)というパフォーマンスにインスパイアされたマドンナが、それをヒントにスマッシュヒット“ヴォーグ”(1990年)を編み出したことをご存知だろうか。そう、LGBTQは往々にして、流行の火付け役になることが多いのだ。
(清藤秀人)