「民主主義の実験に成功はあるか」記者たち 衝撃と畏怖の真実 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
民主主義の実験に成功はあるか
9.11をきっかけにイラク侵攻へと流されるアメリカの姿を、「真実はあるのか」と糾弾し続けたナイト・リッダー社の記者たちの目を通して描いた今作。
表面的な話の流れは、2001年の時点でイイ大人になっていた人達には既知の事実ばかりだ。
連日、テロの真犯人や大量破壊兵器の話題がニュースに流れ続け、「そんなバカな」と目を疑うようなニュースも沢山目にした事を思い出した。
だから、今回の表面的な内容については、特に斬新に感じるものはない。あの時、何が真実かわからない霧の中を、信じられるものだけを必死に掴み続け、発信し続けた記者たちの姿は素晴らしいが、映画としてはちょっと盛り上がりに欠ける。
この映画が本当に興味深い点は、とある歴史の真実を提示することで、今現在の「民主主義を担う市民」である私たちに深い内省を求めている事だと思う。
愛国心に駆られて入隊を決意した若者や、祖国が革命の末分裂した記者の妻を通して、政治的な意思決定がもたらす効果と犠牲を描くことで、考えもしなかった「市民生活への影響」を巧みに伝えている点は特に素晴らしい。
民主主義は多数決であり、多数が幸福になることで経済は動く。その影には少ないとはいえ、いつも損害を被る者がいる。
イラク派兵に限ったことではなく、不当に利益を得ようとする者たちによって「意図的に排除された情報」や「断定できない情報」にコントロールされる可能性は、常に日常に潜んでいる。
民主主義の長所が短所へと転落し、最も愚かな選択をする危険は、私たちが過ごす日々と無縁ではないのだ。
ちょっと味気ない教科書的な映画だが、手軽に大量の情報を手に入れられる今だからこそ観ておきたい映画なのかもしれない。