「ドガの決断」パピヨン ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
ドガの決断
人を罰するのも人、支えるのも人。
ドガは何故、残ることを決心したのだろうか。
平穏を求めたのか。
自信がなかったのか。
故郷フランスに残した大切なものを失い、帰る理由を失ったからなのか。
パピヨンの足手まといになるまいと考えたのか。
いずれにしても、今回のパピヨンは、前作のパピヨンとは異なり、パピヨンとドガの心の交流を中心に描き、過酷さとか不条理とか、マックィーン・パピヨンの生存や脱出に対するモチベーションとは別のストーリーがあったように思う。
抜け出すためには資金がいるとか、用心棒が必要という、最初の、ある意味合理的な動機付けが、ココナッツを巡るやり取りを経て、2人の関係性が、お互いを生かそうというものに徐々に変わっていく。
友情といった簡単な言葉で済ませていいかは別として、2人の気持ちの変化や揺らぎは、復讐心に似たパピヨンの脱獄への当初の強い決意を、生きて牢獄を出ようという、お互いの希望のようなものに変え、5年の独房生活をも乗り切らせることになる。
こうした希望を失わないという描き方は、どちらかというと、「ショーシャンクの空に」に近い感じだろうか。
しかし、ドガは、デビルズアイランドから出ることを最後に拒む。
「君が島を出たいというのと同じように、僕は島に残りたいんだ」と告げて。
この眩い太陽に照らされた、真っ青な空と海を望む断崖絶壁の場面では、ドガの気持ちに思いを巡らせ、胸が熱くなる。
出版社だろうか、自分の体験を本にして残したいというパピヨンに、編集者のような男が「これはあなたの物語なんだね」と問いかけるが、それに対してパピヨンは、「いや、男たちの物語だ」と答える。
おそらく、監獄の過酷さに加えて、ドガがいなければ、自分が生き残ることはなかったことを、希望を失わずに十数年を過ごすこともなかったことを、人々に伝えたかったのではないか。
この映画は、エンターテイメント性を少し抑えて、過酷な仕打ちを与えるのも人間だが、過酷さの中で支えになるのも人間であったことを描きたかったのではないか。
そんな風に思わせる作品だった。
余談だが、第二次大戦の少し前に、民主主義国家になっていたフランスで、このようなことがあったことは改めて驚きだ。
そして、僕たちのよく知らない国では、まだ、こうした事が行われたりしている可能性が高いことも改めて怖いなと感じざるを得なかった。