劇場公開日 2019年9月28日

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「絵本をアニメ化する意味」エセルとアーネスト ふたりの物語 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5絵本をアニメ化する意味

2019年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原作絵本(あるいは、グラフィックノベル)に、あまりに忠実であったので、びっくりした。
動きを付け、シーンを補完しているだけで、絵や台詞は、本質的には変わらない。

初見の人は、原作の内容を堪能できるだろう。
ロンドンの庶民の平凡な人生は、万国共通の人間的な共感を呼び、社会風俗の生き生きした証言になり、戦争という「普通じゃない時代」ではドラマチックでもある。
しかし、前日に図書館で、原作を読んで予習した自分は、複雑な気分であった。「映画館に来る必要があったのか」と。アニメ化する意味は何か? と考えてしまった。

アーネストのロンドン訛りっぽい台詞が聞けるが、労働党びいきな描写は最小限に抑えられている。
また、品のない表現や、ヒトラー・スターリン・ユダヤ人・中国人といった言葉の使用は避ける傾向がある。

制作陣は、原作のラフスケッチ風の絵柄(“ルック”)の再現に苦労したらしい。色彩はほぼ完璧で、一部の背景も忠実だが、全体的には良くも悪くも、原作より緻密できれいだ。
キャラクターは手描きとのことだが、動くがゆえに、さすがにラフスケッチ風とはいかなかったようだ。なお、動きは3D的であり、動く絵本ではない。

映画を先に見ると、描き方がラフで動きのない原作を読んでも楽しめないかもしれない。
しかし、原作を先に読んだ自分には、このアニメ作品が、妙に“のっぺり”と引っかかり所がなく思えて、正直なところ退屈してしまった。
エセルもアーネストも、一般観客向けに、どことなく無難なキャラに丸められ、お国柄も今一つ伝わってこない感じがする。
ポールのエンディングの歌も、平凡だった。

また、なまじ原作を先に読んでしまうと、アニメ化による何かの“プラス要素”を期待してしまう。しかし、本作は忠実な再現を優先するあまり、アニメならでは、という魅力には乏しい。
むしろ、原作絵本を知らない方が、率直に本作品を味わい、感動できるのではと思った。

Imperator