劇場公開日 2019年6月21日

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「波にのる」きみと、波にのれたら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5波にのる

2019年6月26日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

今年もアニメ映画は国内外共に強力ラインナップ。
国内でも定番のTVアニメの劇場版やゲームを基にした映画化、原恵一、新海誠ら人気監督の新作が。そして、この屈指の異才にして鬼才も。

湯浅政明監督の作品と言えば、『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』など、言葉で説明するより見て貰った方が伝わり易いだろう。
湯浅ワールドとしか言い様が無い独特の作風、世界観。
そんな監督が本作で手掛けるのは意外や意外、ラブストーリー!

大学入学を機に、子供の頃住んでいた海辺の町に越してきたひな子。理由は、サーフィンが大好きだから。
ある日、住んでるアパートの火事騒ぎで、消防士の港と出会う。
ひな子の薦めで港もサーフィンを始め、そして二人は惹かれ合っていく…。

夏限定の物語ではなく、一年を通して描かれるが、やはり開幕早々の夏の青い海!青い空!
海!夏!恋!
これからの季節にぴったりだろう。

付き合い始めたひな子と港はとにかくラブラブ。
少女漫画のような理想的過ぎるシチュエーションではあるが、明るく元気なひな子と好青年の港は嫌みの無い爽やかカップル。二人の将来についても…。
ロマンチックなシーンもあり、湯浅監督が王道的な恋愛モノを手掛けるとは…!
でも、ご安心を。湯浅は湯浅。

ある冬の海で、港は溺れた人を助けようとして命を落としてしまう。
悲しみに暮れるひな子。何をしても港を思い出し、サーフィンすら辞めてしまう。
そんな時、不思議な事が。
二人の好きなある歌。その歌を歌うと、水の中に港が現れ…!?

ラブストーリーから突然、風変わりなファンタジーへ。
ちょいシュールでありつつも、不思議な設定とファンタスティックな水の演出は前作『夜明け告げるルーのうた』を彷彿。
序盤と終盤の事件的な花火と火事、そしてクライマックスの“波乗り”、ダイナミックな表現であると同時に個性的。
湯浅ワールドは健在。

ある歌を歌うと水の中に港が現れる。
ひな子は常に水筒を持ち歩き、海洋生物のビニールおもちゃに水を入れ、外を出歩くように。
傍目には奇行で、悲しみのあまりおかしくなったか。
ちなみに、水の中の港が見えるのはひな子だけ。
でも、それでもいい。また港と一緒に居られるのなら…。

ずっとこのままでいいのか。
抱き締める事も出来ない。キスする事も出来ない。手と手が触れ合う事すら出来ない。
最愛の人を失った悲しみは同情する。
でも、ずっと引き摺っててはいけない。
また、ひな子は自分の将来という波に乗れない。
自分は何をしたいのか。
まるで波に溺れた状態のひな子の道しるべとなったのは、港。
港は何故冬の海にサーフィンをしに行ったのか。
港がひな子を“ヒーロー”と呼ぶ理由。
ひな子と港の“最初の”出会い。
喪失からの立ち直り、自分の将来、港の存在…全ての出来事や出会いには必然と運命的な意味があり、クライマックス、文字通り再び波に乗るひな子の姿には胸がすく。
しっかりと、一人の少女の成長が描かれている。

おっちょこちょいだが、快活なひな子の声にオメデタ川栄李奈は合っている。って言うか、なかなか巧い。
港の後輩ら周りのサブエピソードも描かれ、中でも港の気の強い妹はナイスキャラで、声を担当した松本穂花は最近個人的にお気に入り。
画のタッチやキャラデザインは、目を見張るほど美しく繊細でリアルではなく、作風も含め、好き嫌いは分かれるだろう。
だけど、これまでの湯浅作品に比べマイルドな作りで、受け入れられ易い筈。

しかしながら、先週末の国内ランキングで初登場9位なのは残念無念…。
ファンは大勢居るが、まだ細田守や新海誠のような大ヒットや一般認知の波には乗れず…。
かと言って、本作は決して凡作や失敗作ではない。
少女と青年の恋、
前向きなメッセージ、
らしさもたっぷり、
好編の湯浅流ラブ・ファンタジー!

今後も幾つもの企画を抱える湯浅監督。
中でも気になるのは、久し振りに『クレヨンしんちゃん』に復帰するプロジェクト、『SUPER SHIRO』!

近大
CBさんのコメント
2019年10月5日

自分も楽しめました。ちょっとだけ曲を歌う回数がしつこすぎましたけどね。これはタイアップの宿命だからしょうがないかな。

CB