「河童の国」岬の兄妹 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
河童の国
芥川龍之介の「河童」には以下のくだりがある。資本主義社会の河童の国では労働者が資本家に搾取され、用無しになった労働者は殺されて肉として食われるのだと。それを聞いて驚く主人公に河童は言う。君たちの国でも同じく社会的身分の低い女性が売春させられているだろう、搾取の構造は人間社会も変わらないだろうと。
貧しく金に困った良夫はやむなく自閉症の妹に売春をさせて金を稼ぐ。なんの力もない彼らに唯一稼げるのが売春という方法だった。
資本主義社会では金になることならなんでも商売につなげる。女性が体を売るのもこの世界では自明の理とも思われた。
金を稼げるようになった良夫は目隠しのボール紙を引っぺがす。たとえ売春という方法であっても自分たちは稼いだんだ、この資本主義社会で一人前に稼いだんだと。障害者だからといって何も恥じることはないんだと言わんばかりに。
新自由主義により行き過ぎた資本主義社会では人間の価値は生産性により判断される。良夫自身もこの生産性を叫ぶ社会にどっぷり毒されていた。
金を稼げるようになったとはいえ、妹に妊娠までさせてしまい罪悪感にかられる良夫。追い詰められた彼は心中まで考える。そんな彼に貯金箱を差し出す真理子。彼女も兄のつらい気持ちを理解しているのだろうか。
運よく職場復帰できた良夫。兄妹は元の平穏な生活を取り戻したかのようだった。しかし、兄の呼びかけには無反応な真理子が携帯の着信音に反応するという皮肉なラストで本作は幕を閉じる。
無垢な幼児の心しか持たない妹を売春させねば生きてゆけない貧しい兄妹の姿。この社会でその搾取される姿を通して、資本主義社会、生産性を叫ぶいまの社会を痛烈に風刺した本作はまさに河童の国という架空の世界を描き、当時の日本社会を風刺した「河童」と同様の作品だった。