「あのぉ。どうですか、一万円で。」岬の兄妹 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
あのぉ。どうですか、一万円で。
問題作だ。これほどきついテーマをまっ正面から押し付けてくる。そこにあるのは自分とは無縁の世界、いや、知っていても知らんぷりしてきた世界。「万引き家族」が心暖かなホームドラマに思えてくる。
スクリーンの中にいる兄妹は自分ではないのに、まるであの段ボールで目隠ししたボロ屋に一緒に住まわされているような感覚が芽生える。そう、ヨシオが目をひん剥かれんばかりに妹の行為を見せつけられていたあの気持ちのように。そして、友人の警官のように、気遣いをみせているようでやはり他人事としか見ていない自分の目の前に、等身大の鏡を立てかけられて、この映画を見ている自分を見せられているような嫌悪。そりゃあ生活保護を受けろよ、という意見だってあるだろう。だいたい、そこに考えが至らないのかもしれない。でもその発想が起きる前に、もがいてもがいてしがみつくような生き方しかできないこの兄妹の、薄汚いド根性に激しく心揺さぶられるしかない。
ヨシオの腹をくくった後の表情の見事さ、マリコの体当たりの迫真の熱演に、惜しみない拍手を送ります。
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