劇場公開日 2019年8月2日

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「一家族を焦点としながらも一国を広角に捉えてある」風をつかまえた少年 ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5一家族を焦点としながらも一国を広角に捉えてある

2019年8月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 こまかくみればツッコミどころ多いが、アフリカの大地が、そのような見方はそぐわないと言っている。発電を成功させる筋書き自体は実にシンプルである。そこだけを追ってしまうと木を見て森を見ずの類だ。ここには何もないと繰り返し語られる、アフリカのなかでもで貧しい国マラウイ。そのマラウイの一家族の貧しい暮らしを通じて、映し出されるのは、広大で悠久たる大自然、それと対峙する人々の暮らしである。この地の世界のすべて。だからここはアフリカ大陸をわたる風に吹かれているつもりで、骨太な解釈で臨みたい。
 ひたすら耕すことで立ち向かう父親。人ひとりの無力さがよく描かれていた。大地の奴隷である。対して、ラストの風車の横でほほ笑む少年。「知識は奴隷にならない人間を生み出す」という名言を、この映画に添えてみたい。
 ウイリアム少年の想像力と実行力には拍手だが、もうひとつ大きな力となったものがある。図書館だ。何もないという貧しい村だが、学校があり、学校には図書館が備わっていて、一通りの本が揃っていたということ。蓄えていた知識を活用できていなかったのは教師をはじめ大人たちの不面目だが、学校と図書館を護り継いできたことは殊勲ありだ。
 一家族を焦点としながらも一国を広角に捉えてある。気候風土、生活、文化、風習、政治。人間社会の構成要素がほぼ原石の姿で互いとの係わりを描きあっている。
 カムクワンバ一家の、ものわかりの悪い父親が、監督も兼ねているキウェテル・イジョフォー。やり場のない苦悩にまみれたやるせなさ、そういったどう演じたらよいのかを伝えようもない役どころを、うまく演じている。さすが監督兼任。さらに調べたら、2013年作のアカデミー作品賞「それでも夜は明ける」で奴隷を主演した俳優さんだった。
 創造と工夫で世界は変わる。そこを啓発される。ウイリアム少年の貧しくてもつらくてもどこか豊かさ感じさせる表情もよかった。

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ピラルク