「イラク戦争当時にネオコン政治家たちのやっていたことを、ユーモアも交えながら丁寧に描いている。」バイス Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
イラク戦争当時にネオコン政治家たちのやっていたことを、ユーモアも交えながら丁寧に描いている。
アダム・マッケイ監督による2018年製作のアメリカ映画。原題:Vice、配給:ロングライド
未だ生きているらしいチェイニー元副大統領を始め、ラムズフェルド元国防長官、ジョージ・W・ブッシュ元大統領らネオコン政治家たちを、ユーモアを交えながらも強烈に批判しており、とても驚かされた。日本では殆ど考えられない映画だ。しかも、制作に人気俳優ブラッド・ピットが関わっている。
ただこの映画のおかげで、他国侵略であるイラク戦争を大量破壊兵器保持の偽情報を理由に引き起こしたブッシュ政権の背景を少し理解できた気がした。ブッシュ大統領があんな感じとは知らなかったが、調べてみると大学時代は典型的金持ちのバカ息子だったとのことで、映画の描写はかなり事実に近い様だ。
共和党右派によるFOXニュースや御用学者等の最大級活用による自分達に都合の良い世論形成の描写も生々しい。CNN等とバランス取れている様に錯覚していたが、視聴者数で言えば断然FOXニュースなのか。意外だったが、日本の状況とも類似する。成る程というか、トランプ大統領誕生の理由も教えられた気がした。
クリスチャン・ベールがチェイニーを演じていたことを見終わった後に知り驚愕。あまりの変身ぶりに視聴中は全く気づかなかった。妻のリン・チェイニーが随分と良い奥様ぶりで好感を抱いた。彼女を演じたのが「メッセージ」主演のエイミー・アダムスであることも気づかず。演ずる役に思いっきりなりきる一流俳優たちの姿勢に感嘆。
映画の若い語りべが事故に遭遇し、彼の心臓がチェイニーに移植される展開にはビックリ。やはり権力を使って優先的に心臓移植がなされたのか?流石に当時話題にもなったらしい。
映画を通して、軍事産業や大企業に迎合する米国政治、ひいては資本主義国家の政治の問題をあらためて突きつけられた気がした。やはりそれに異論を主張できる健全な映画を含めてのメディアの存在が非常に重要であることも併せて再認識。日本でも権力者を丁寧に描く、、この手の映画を是非見てみたいものである。
製作ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クレイマー、 ウィル・フェレル アダム・マッケイ、ケビン・メシック、製作総指揮ミーガン・エリソン 、チェルシー・バーナード、ジリアン・ロングネッカー 、ロビン・ホーリー、ジェフ・ワックスマン。脚本アダム・マッケイ、撮影グレイグ・フレイザー、美術パトリス・バーメット、衣装スーザン・マシスン、編集ハンク・コーウィン、音楽ニコラス・ブリテル、特殊メイクグレッグ・キャノン。
出演クリスチャン・ベール(ディック・チェイニー)、エイミー・アダムス(リン・チェイニー)、スティーブ・カレル(ドナルド・ラムズフェルド)、サム・ロックウェル(ジョージ・W・ブッシュ)、タイラー・ペリー(コリン・パウエル)、アリソン・ピル(メアリー・チェイニー)、リリー・レーブ(リズ・チェイニー)、リサ・ゲイ・ハミルトン(コンドリーザ・ライス)、ジェシー・プレモンス(カート)、ジャスティン・カーク(スクーター・リビー)、エディ・マーサン(ポール・ウォルフォウィッツ)、シェー・ウィガム、ビル・キャンプ、ドン・マクマナス、ナオミ・ワッツ、アルフレッド・モリーナ。
> 日本でも権力者を丁寧に描く、、この手の映画を是非見てみたい
同感です。俺たちは権力者に対して少しだけ寛容すぎる、という自覚を持つことと、大きなマスコミも権力者に対し好意的か否定的かの二者択一に立つのではなく、ひとつひとつをよい/悪いと報道してゆくようになれば、日本にも遅ればせながらの "ちゃんとした民主主義" が育つように思います。