「権力とカネの亡者を、アメリカ型民主主義では排除できない。」バイス お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
権力とカネの亡者を、アメリカ型民主主義では排除できない。
権力とカネの亡者。
チェイニー元副大統領を一言で評するなら、この言葉がふさわしいのでしょう。
他人がどれほど死のうが良心のカケラもとがめない、クズ中のクズ人間。
こいつが率いる「戦争産業」「石油産業」の儲けのために、いかに政府を乗っ取り、独裁権を行使したか。
クリスチャン・ベールの名演技によって、克明に描かれている映画でした。
911テロを受けて、テロの犯人であるアルカイダと無関係なイラクを相手に、アメリカは開戦します。
狙いはイラクの油田地帯の権益をぶん獲り、山分けすることです。
開戦の口実は「大量破壊兵器が存在すること」でした。
完全なデッチアゲでしたが、パウエル国務長官に国連でデタラメな演説をさせ、開戦へと持ち込みます。
パウエルは、この演説が人生で一番嫌な仕事だったと述懐しています。
この演説中、実際にはイラクにいくらでもいる単なるチンピラの一人に過ぎないザルカウィの名前を挙げて、「イラクにもアルカイダの手先がテロ組織を拡げている」とことさら危険をアピールしたため、ザルカウィは周囲から過剰な注目を集め、テロリスト志願者が勝手に押し寄せるようになり、1年で本物のテロ組織「イスラム国」が出来上がってしまいます。
反米を後押ししたのは、またしてもアメリカ自身だったという構図です。
チェイニーは、政府に入るにあたって、CEOを務めたハリバートンから超巨額の退職金を受け取りますが、副大統領に就任後、同社と随意契約を繰り返し、数十億ドルの契約を同社に与え、ハリバートンの業績は急上昇、株価も5倍に値上がりしたとのこと。
こういう映画を観て、思うのです。
民主主義体制というのは、それを悪用する人間が出てこないことを前提にしている体制です。
そのために極悪人を排除する装置が選挙という制度ですが、本物の極悪人なら、この制度を悪用しようと思えばいくらでも悪用できるのだという警鐘なのだろうと感じたのでした。
たった一度や二度の選挙で、人に全権を与えてしまう制度の弊害が、アメリカにせよ韓国にせよ、明白になってきた昨今、日本のように、何度も選挙のチェックを受けてきた人間だけしか権力の頂点に到達することができない議院内閣制度のほうが、実は民主主義の制度として優れているのかも知れないと考えさせられました。
直接民主制の「国民投票」によって、英国がBREXITでどれほど悲惨な状況に陥ったか。
韓国がローソク革命でどれほど酷い売国奴を大統領に選んでしまったか。
そしてこの映画のディック・チェイニーが、たしかに選挙を戦ったのは事実ながら、その選挙はブッシュ大統領の後ろにコソコソ隠れて当選しただけに過ぎないこと。
こういう事例こそが、直接民主主義の陥穽なのだと再認識させられたのでした。