「現代のパワハラにもつながる、笑えないブラックコメディ」ちいさな独裁者 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
現代のパワハラにもつながる、笑えないブラックコメディ
終戦間際1945年4月のドイツ。所属部隊から命懸けで逃げたした若い兵士のヘロルトは、逃走中に偶然手に入れたドイツ将校服に着替える。
すると、あれよという間に"威光"を手に入れていく。"自分は大尉だ"、"総統からの特命を受けている"という巧みな言葉を弄し、部下は増え、あらぬ方向へ進んでいく。
なんとこれ。1945年にヴィリー・ヘロルトが引き起こした実際の事件をもとにしている。その怪物っぷりは凄まじく、しまいには収容所の脱走兵の集団処刑を指示する。
笑うに笑えない超ブラックコメディである。原題の"Der Hauptmann"は="大尉"の意味。一介の兵士が"大尉の制服"によって、"偽りの権威"を得る。
権力に屈し、おもねいたり、正しい思考を停止してしまう人間の弱さ。
ドイツの戦争映画といえば、反ナチスが典型だが、本作の場合、ナチがナチを殺す映画なので、変則的ではある。
その"リーダー"は本当に正しいのか。単に"制服"や"肩書き"を身にまとっているだけではないのか。そのリーダーや組織は正常なのか。終戦間際のドイツ軍の混乱と迷走が見えると同時に、"組織に属する人間の盲目的な行動"を揶揄するメッセージが込められている。
ドイツ人のロベルト・シュベンケ監督は、ジョディ・フォスター主演の「フライトプラン」(2005)からハリウッド進出。「ダイバージェント」シリーズなどのメジャーヒットで活躍する監督だが、あえて自国でメッセージ性の高い作品を作った。
"権力"はまた、"お金"にも置き換えられる。近頃、話題になる"パワハラ"もこれの一種にすぎない。あらためて身近な社会でも、似たような事象を考えさせられる。
エンドロールのサービスカットがある。主人公のヘロルトたち即決裁判チームが軍用車で、現代のドイツの街を駆け抜け、ナチスの制服姿で、若者たちの所持品検査をする。
スマホを取り上げたり、映画のプロモーションとはいえ、これは笑っていいものか戸惑う。現代でも人間の行動は何ら変わっていないという、監督の強いメッセージなのだろう。
(2019/2/12/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネスコ/字幕:吉川美奈子)