劇場公開日 2019年10月4日

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「世界を鳴らして」蜜蜂と遠雷 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5世界を鳴らして

2020年4月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

興奮

幸せ

公開時良さそうだなと思いつつも、何故か劇場スルー。
そしたら、国内映画賞で軒並み高い評価や受賞を。
こうなってくるといつもながらのミーハー心で早く見たくて堪らなくなり、本作もレンタルを待っていた。

若手ピアニストの登竜門とされるある国際ピアノ・コンクール。
それに挑む姿を、4人のピアニストに焦点を絞って描く。
“文字から音楽が聴こえる”“圧倒的な音楽描写故映像化不可能”と言われた、史上初の直木賞/本屋大賞W受賞のベストセラー小説の映画化。
原作は未読。

4人の天才ピアニスト。
かつて神童と将来を期待されながらも、ある悲しみをきっかけに表舞台から姿を消し、7年振りに再起を懸ける亜矢。
年齢制限ギリギリで、今回最後のコンクール。岩手の田舎町の楽器店で働きながら、ドキュメンタリー番組の密着や家族のサポートで挑む明石。
アメリカの名門音楽院で学び、今回優勝候補とされる期待の星。亜矢とは幼馴染みでもあるマサル。
そして、亡き有名ピアニストの推薦で突如現れた異端児、塵。
彼らが奏でるピアノはそれぞれ違う。
ブランクを感じさせないピアノ、生活に根差したピアノ、情熱的なピアノ、賛否両論ながらも聴く者を惹き付けるピアノ…。
素人からすれば、不思議なものだ。
ピアノ一つでこうも違う。
でも、映画だって同じ。
同じ役を別の役者が演じれば、全然違う。そういうのをどれだけ沢山見てきた事か。
映画監督の演出も人によって、リハ無しの即興もあれば、脚本や絵コンテに沿って緻密で何度もテイクを重ねたり。
ピアノを全く弾けない自分が言うのも何だけど、だからピアノは魅力的で奥が深い。

松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士の四重奏は絶品。
松岡は陰を潜め、松坂は人間味あり、森崎は熱さほとばしり…複雑な内面を体現。
中でもやはり、オーディションで抜擢された鈴鹿の自然体の演技と不思議な魅力。圧巻のピアノ演奏も披露。
勿論3人もピアノを猛特訓し、実際弾いているシーンもあるが、全編弾いているのではなく、“弾いているように見える”だったのが残念。幾ら才ある役者たちでも、ピアノを天才プロ級に弾くのは難しいか…。(でも海外では演者が実際にピアノ演奏を披露する作品は多いけどね…)
他キャストでは、ホール責任者の平田満、威厳たっぷりの世界的指揮者役の鹿賀丈史がハマり過ぎ!

繊細に弾き始め、幻想的な心理描写で間奏し、圧巻のピアノ演奏でフィナーレ!
人間のエゴを印象深く描いた『愚行録』でデビューした石川慶監督が、至宝の音楽映画でまた新たな才を披露。
ピアノ演奏時の回転や奏者を下から捉えたり、オーケストラ演奏時も楽団の中を回り、時には空を舞うようなカメラワークは見る者聴く者の心情とリンク。
映像も美しく、4人の心情や内面や精神を様々なイマジネーションで表現。
また、日本を代表する世界的ピアニストによる演奏や数々の名クラシック曲が言うまでもなく素晴らしい!
これだけでも劇場で聴きたかった。今更ながら悔やむ…。

ピアニストたちは自分の人生の全てをピアノに打ち込む。
幼い頃から、遊ぶ時間も寝る時間も割いて。
ピアニストもそれぞれ。
努力家もいれば、天才肌も。
ピアニストたちは何故ここまでピアノを追求する…?
夢。既存のクラシック曲を弾くのではなく、かつての名作曲家たちのように、新たなクラシック曲を作る。壮大な夢。
ピアノが好き。ただただ好き。どうしようもないくらい好き。演奏してる時は楽しく、この上ない幸せ。
再起の為。それは自分一人ではなく、周りも魅了する。新たな世界が開け、新たな鍵盤(人生)をーーー。

素敵な台詞が幾つもあった。
世界は音楽に溢れている。
世界が鳴っている。
雨の音。馬の蹄の音。風の音。鳥のさえずり。…
蜜蜂の羽ばたきや雷鳴に至るまで。
そんな音楽を聴きたい。
そんな音楽を弾きたい。
世界を鳴らして。

近大
bloodtrailさんのコメント
2020年4月13日

亜夜はプロコフィエフのピアコン3番でしたが、劇場で流れる音楽は、CDともコンサートホールで聴くのとも違ってました。ピアノとオケの音量のバランスが、圧倒的にピアノ優位で、まさにピアノに圧倒されました!

bloodtrail
CBさんのコメント
2020年4月13日

> これだけでも劇場で聴きたかった

ですよね〜。自分は劇場で観られたのですが、「LIVEZOUND スクリーンにかけてください」というメールでのお願いが、聞き入れられなかったのが、残念です!

CB
bionさんのコメント
2020年4月13日

僕も最初、劇場スルーするつもりでいたんですが、あまりに評価が高いので見てみたら音楽としても映画としてもクォリティが高くてびっくり、すっかり没入してしまいました。
鑑賞後、小説も読んでみたのですが、小説は音を想像する楽しみがあって、映画と同じくらい楽しめましたよ。

bion