劇場公開日 2019年10月4日

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「評価の先へ」蜜蜂と遠雷 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0評価の先へ

2019年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

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映画であれ、ピアノであれ、評価を下すべき人間とは一体誰なんだろうか?
若手ピアニストの登竜門とされるピアノコンクールに挑む者たちの姿を描いた作品でありながら、物語の焦点は勝敗の行方には定まらない。むしろ、勝敗など二の次、三の次として扱われ、優勝を渇望する者ほどあっさりとスクリーンから姿を消していく。

物語の軸となる4人のピアニストはいずれも天才と呼ばれる才能の持ち主であり、それぞれがそれぞれの実力を発揮すべく、鍛錬し、苦悩し、そして本番に挑んでいく。コンクールから離れた場所で出会う彼らにライバル心も嫉妬心もない。互いにピアノに取り憑かれてしまった運命を分かち合うかのように、あるいはピアノ界以外に行き場がないという者たちが仲間を見つけたかのように会話を繰り広げていく。

乱暴な言い方かもしれないが、彼らにとってコンクールの勝敗など興味がないのだろう。挑む続ける理由は自分の演奏を音楽界に知らせること、自分の演奏が完璧を超えていくこと、そして自分自身をも乗り越えていくことであり、コンクールは自分自身の存在意義を試す場でしかない。ゆえにセリフではなくピアノ演奏そのものが登場人物の感情を代弁する。

私も含めてピアノや音楽界に精通していない観客にとっては一見、置き去りにされそうな構成でありながら、それぞれの俳優たちが表情豊かに演じきり、観る者の解釈を深めていく。しかし、自身の演奏を成し遂げた主人公に聞こえた音が穏やかな蜜蜂の羽音だったのか、それとも嵐を呼ぶ遠雷の轟だったのかは凡人の私には分からない。だが、それでいい、それだからこそいい。最後に発表されるコンクールの結果をあなたはどう解釈するだろうか?

Ao-aO