「ひとり2時間必要」蜜蜂と遠雷 まきさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとり2時間必要
春と修羅まではめちゃくちゃ退屈だった。説明的なセリフで導入って邦画にありがちだなとか、脇役のキャラ設定がステレオタイプだなとか、マサルと塵の絡みはないのにいきなり海に行くんだなとか、よけいなことばかり考えていた。
原作でも、「春と修羅のカデンツァ」は前半のかなり重要な部分だと思うので、一次予選を駆け抜けていきなりこれとかもったいない!と思う。このシーンに至るまでの様々な描写あっての、春と修羅なのに。
でも明石のカデンツァが音楽として聞けたのはすごく嬉しかった。同じ曲の即興でもあんなにバリエーションがあるとは。本場のクラシックの世界でもそうなんだろうか。明石は個人的に一番思い入れのあるキャラなので、菱沼賞をとり、「生活者の音楽」が認められるシーンは映像にしてほしかったな…と思う。
後半、亜夜に焦点が当たり始めてからは集中して観ることができた。演奏シーンは魅力的だし、たまにこぼれる素の笑顔は天才ぽかった。指揮者にちょっと癖があるので、それぞれの「思いを理解されないこと」と「自信を持ちきれないこと」を描くことができていて、中でもマサルには結構共感してしまった。
2時間の映画にしようと思ったら、すごくよくまとまったんだと思うしいいんだけど、原作を知っているとやっぱり物足りない。創作には、小説だからこその魅力と、映画だからできる魅力があるんだと思うけど、私はこの話は小説の方が好きだな。
4人にフォーカスとか無理があったんだな、ひとりにつき2時間の映画にする必要がある。もしこの監督がやってくれるならとても観たい。
最後、亜夜がコンチェルトをやりきって、晴れやかに世界の音を聞いているシーンで終わるのは、蛇足感がなくてよかった。