「音楽芸術性の高い作品と松岡茉優の新たな魅力に浸れます。」蜜蜂と遠雷 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽芸術性の高い作品と松岡茉優の新たな魅力に浸れます。
「ちはやふる」で松岡茉優さんを見た時に“なんか凄い女優さんだ”と言う思いから気になりだし、「勝手にふるえてろ」でドハマりして、とっても気になる女優さんの1人になりましたが、意外と主演作が少なくて、勝手にふるえてろ以来の松岡茉優主演作とあれば期待するでしょうとばかりに観賞しました。
で、感想はと言うと…かなり音楽性の高さにビックリ。
綺麗な作品であり、静かに情念をぶつけられる作品でエンタメ色よりも芸術文学としての側面が強く、映画の必要な部分をバッサリと削った感もあって、かなり硬派な作品で、なかなか観る人を選ぶ感はあります。
1番のポイントは劇中のピアノ演奏のレベルがかなり高い(様に思えるw)
クラシックに長けている人にはその違いが分かるかもしれないけど、自分には演奏技術の差が分からないので、単純に“皆上手いなぁ”ぐらいしか思えないが、違いが分かるともっと面白いのかも知れません。
松岡茉優さん演じる栄伝亜夜が主人公の様に感じますが、少し主人公テイストが強く感じるだけで、主人公と言うか主軸なるのは4人のピアニスト。
既婚者でコンテストの参加資格年齢ギリギリの松坂桃李さん演じる高島明石。
栄伝亜夜の幼なじみでアメリカ在住の天才肌のピアニスト、森崎ウィンさん演じるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。
天性のピアニストで最年少の鈴鹿央士さん演じる風間塵。
幼少期から天才ピアニストとして活躍していたが、母親の死のショックでコンサート中に演奏を止めて放棄した過去を持つが久方ぶりのカムバックを果たした栄伝亜夜。
松岡茉優さんと松坂桃李さんはダブル主演なのでこの2人が中心に進むと思いきや、松坂桃李さん演じる高島明石は準決勝で早くも脱落。
これにはビックリしました。
凡人は天才には勝てないと言ってしまうとそこまでですが、準決勝で敗退しまうのにはリアルと言えばリアル。この辺りのバッサリ感にはなんか凄いです。
いろいろと試行錯誤し、悩み苦しみ、決勝では全てを吐き出すかの様にぶつける。
ピアノに対する思いはそれぞれでそれはもう情念と言うか、怨念に近いぐらいの気持ちをぶつけてきている。
それが鬼気迫る迫力になってるんですよね。
細かい部分の描写や登場人物の思いを言葉にするのでは無く、いろんな描写で描いているのでMVの様な美しさもあります。
決勝を前にしての海岸での休息や海での遠雷など、目を見張る様な映像は一時の休息的な伸びやかな美しさがあります。
映画として体を成してきた様に感じたのは、後半の鹿賀丈史さん演じるマエストロ、小野寺昌幸が出て来てぐらいから。
でも、良いですね。鹿賀丈史さんが出てくる事で背筋がピシッと引き締まる緊迫感が生まれます。
他にも斉藤由貴さんや片桐はいりさん、平田満さんらで脇を固めつつもなかなか贅沢な使い方をされてますw
斉藤由貴さんは先日観賞した「記憶にございません!」のお手伝いさんの方が斉藤由貴さんらしくて良かったかなw
松岡茉優さんは綺麗な女優さんではあり、こんな静かに力強く演じられるとはビックリですが、個人的には勝手にふるえてろの様なイメージと違う少しブッ飛んだ役の方が栄えるし、松岡茉優さんの魅力が花開くと思うのですが如何でしょうか?
よくまとまっている作品ですが、難点があるとすると、4人のピアニストに焦点を当ててますが、それぞれに満遍なく当て過ぎていて、もう少し踏み込めは良いのになぁと思える所があり、3人ならもう少しまとまっていたかも?と思う所もあり、焦点がぼやけた感じが少し物足りなさを感じた所でしょうか。
直木賞と本屋大賞をダブル受賞で映像化不可能と言う触れ込みでの映像化で、いろんなクラシックをテーマにした作品と比べても音楽性はかなり高いと思います。
小説の文学作品を読んだ様ないろいろと考えさせられる余韻や情感の味わいも心地好い。
原作は未読なんですが、上下巻の原作のどこを削っているかが気になります。
原作は映像化不可能と言われていましたが、かなり高水準での映像化ではないかと思います。
ドキュメントを見た様なリアル感もあり、芸術の秋、映画の秋にピッタリで心地好い余韻に浸れる作品です。