「台詞/モノローグなしで主観をどこまで語れるか」蜜蜂と遠雷 LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
台詞/モノローグなしで主観をどこまで語れるか
公開日の夕方に鑑賞しました。
導入部の印象は「四月は君の嘘」+「ピアノの森」。
ヒロイン、栄伝亜夜がピアノにトラウマを負った原因は、母の死。
優しい母と厳しい母の違いはあるが、「四月は君の嘘」の設定とほぼ同じ。
強い音圧で方にはまらない演奏をする風間塵は、「ピアノの森」の一ノ瀬海っぽい。
コンテストの雰囲気や、コンテスタントの交流や葛藤も、既視感が無いといえば嘘。
それでも、亜夜が7年前に残した宿題を克服しようと演奏するラストは、緊張感があって好きえした。
演奏ぞのものの気迫に加え、また途中で止まっちゃうんじゃないかとハラハラし、独特の緊張感がありました。
本当に弾いているように見えるかは、場面によっては微妙でしたが、演奏後に息が荒い感じはリアルでした。
個人的に好きなシーンは、調律師の工房で、亜夜と塵が連弾するところ。
月を眺めながら、ドビュッシーの「月の光」から「ペーパームーン」(映画音楽)、そしてベートーヴェンの「月光」へと揺蕩い、また「月の光」に戻る件が白眉。
月のイメージ1つで、打ち合わせなし連弾できちゃうなんて、めっちゃ素敵。
プロとしてはコンテストに勝つことが重要なんだろうけど、素人目線では何気ない日常をピアノの調べで満たせることの方が素敵に思えます。
また、塵を演じる鈴鹿央士の、イノセントな美しさと表情には目を奪われる。
演奏する時の歓喜に満ちた表情は、無邪気さと天才性を体現してました。
マサル演じる森崎ウィンも、good acting。
幼馴染としての優しい、野心ある若手ピアニストとしての熱さや焦燥が、よく出てました。
審査委員長を演じる斉藤由貴も良かったです。
尊大で辛辣な感じが、大物ピアニスト然としていました。
課題を感じたのが、今回の演出でどこまでヒロインの心情を表現できたかというところです。
松岡茉優演じる亜夜は、時折笑顔も見せるけど、基本無表情です。
それは、母の生前には響いていた音が鳴らなくなったから。
自然に溢れている音を、音楽として紡げなくなったから。
それでも、風間塵との交流を通じて、自然の音を感じられるようになり、7年前の宿題に立ち向かう。
と、大筋はフラッシュバックの演出や、亜夜が選んだ舞台衣装から理解できました。
ただ、その際の亜夜の感情の高まりまでは、感じることができませんでした。
「四月は君の嘘」ほど雄弁でなくていいけど、モノローグを有効に使う演出もあり得たのではないかと感じました。
無論、実写映画でのモノローグの多様は野暮なのかもしれません。
ただ、心の叫びを表情で語らせないのなら、もっと他の表現手段を開発してほしかったです。
正直、雨に佇む馬のイメージは、最後までピンときませんでした。
原作未読なのがいけないのかもしれませんが、映画が独立した作品である以上、原作み読者にも理解できる演出は必須なはずです。