「世界を鳴らす人の成長物語に、静かな涙が溢れ出る」蜜蜂と遠雷 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
世界を鳴らす人の成長物語に、静かな涙が溢れ出る
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この世は音楽に溢れている。その事を再認識させてくれる、これは音楽映画なのか。しかし静かに溢れる涙の理由は別の所にあったように思う。
それは、幼くして母親と死別するという葛藤を抱えたまま、母親との想い出が一杯詰まった音楽との向き合い方に迷い続ける一人の少女の成長物語に感情が揺さぶられたからだった。
実は、昨年、後にも先にも一度きりのエキストラの経験を、この映画でさせてもらった。
ロケ場所等は箝口令が出されていたが、エンドロールにクレジットされていたので、もう書いてもいいだろう。
その時、客席から演奏中の栄伝亜夜の表情を伺い知ることはできなかった。
しかし、映画の中での松岡茉優の演技は想像以上だった。人目を避けるような冒頭の表情から、時折見せる本来の笑顔、そしてラストの己に克つ凄みの表情。と、葛藤の中で成長する主人公を共感の中に見せてくれた。
ピアノを弾きながらの演技はどれだけ難しいのかと考えると、この女優さんの演技の密度と集中力は、大したものだと思う。
きっと女優という仕事も、葛藤と迷いに満ちた職業だと思うが、劇中の栄伝亜夜のように更なる高みを目指してほしい。
原作の恩田陸さんと石川慶監督は、音楽という刹那な永遠を通して、人が己を乗り越える逞しさと尊さ、そして美しさを描いてくれた。
それは、美しく儚い映像と音に身を任せ耳を澄ませ幸せな時間を過ごさせてくれる、宝石箱に似た贈り物だ。
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NOBUさんのコメント
2019年10月5日
森のエテコウさん
コメント有難うございます。素直に嬉しいです。
品のあるレビュー、拝読させていただいていますよ。
これからも、素敵な作品へのレビュー宜しくお願いいたします。