「幾多のテーマが絡み合う傑作」ヘイト・ユー・ギブ rageさんの映画レビュー(感想・評価)
幾多のテーマが絡み合う傑作
まるで無駄のない133分。ここまで手放しで称賛したい映画はいつぶりだろう。
カテゴライズすることが難しいくらい、飛び抜けた出来栄えだと思う。
人種差別をテーマにしたヒューマンドラマ、そう言ってしまえばそうなのだけれど
良い意味でそんな期待を大きく裏切ってくれる。
普通のヒューマンドラマが安全圏を飛ぶ旅客機なら、この映画はまるで戦闘ヘリだ。
青春劇という上空を飛んでいたのも束の間で、悲惨な現実や社会問題へ低空飛行で近づいていく。急降下が続き、まるで戦争映画を見ている時のようにシリアスで、緊張感のある時間が続く。
その緊張感で、胃が痛いのではなく、胸が痛くなる。
こんなに胸が痛くなるのはなぜなんだろう、そう思いながら見続けた。
アメリカの警察官による黒人射殺問題として、助手席の恋人がスマートフォンで撮影した動画が世界的に報道された2016年のミネソタの事件を思い浮かべたが、それだけではなく数々の問題をモチーフとして取り入れているのだろう。
実話を基にした警察官による黒人暴行を問題定義した映画として「デトロイト」があったが、
デトロイトよりも視聴前の覚悟や予備知識がなかったせいか、よほど緊張感を感じ、心に染みる結果になった。
また「デトロイト」と比較を続けるのならば、「悲惨な差別」を題材にしながらも、それに止まらず、人種差別を超える「存在意義」や「家族愛」や「人間の成長」を描くことを目的としている点が、ここまで評価を受ける結果となったことが伝わってくる。
また、脚本は登場人物全てにおいて無駄なく描き切っており、意味のないキャラクターがいない。全てが人間味と、長所と短所と、容易に否定しがたいそれぞれの世界における正義を持っている。父親も母親も、偶像的ではなくて、まるでモデルがいるようだ。
その脚本に応える出演陣の演技も素晴らしい。
長く書いたが、文句のつけようのない作品だ。