劇場公開日 2019年5月24日

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「興奮要素100% それだけで価値がある」プロメア JIさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5興奮要素100% それだけで価値がある

2020年10月11日
PCから投稿

映画の比較的短い尺に、壮大なストーリーが濃縮されて、triggerの(triggerの?)スタイルがより簡潔に明快に表れていました。
 ゆっくりしたシーンは最小限となり、常にめまぐるしい映像とともに、ストーリーが進み続ける強烈な体験。この濃密さの度合い自体が、もはや新鮮です。

新しい表現に対する鋭い探求と、そうして得られた発見を、ストレートに極端に拡大することで、新しい感覚の域に辿り着くのが、トリガー作品に散見される表現スタイルな気がします。単純に言うとですが。

デザイン的に率直にカッコいいと思える新鮮な表現に、まずはこの作品の独自性を感じます。
 火消し屋というモチーフ、タイポグラフィ、幾何学的に処理した諸要素。
 そしてやはり色彩は印象的でした。高彩度色を、要素を減らして色面的に扱い、全体に敷くことで、これまでアニメーションではアクセントカラー的にのみ使われることが多かった、高彩度な色の表現を再発見しています。

そして、そうしたデザイン的な突き抜けた新鮮味を纏わせつつ、より即効性のある興奮を創出しているのが、今作の特徴であり、コンセプトだったのではと考えています。

差別、テロリズム、環境問題などといった、社会問題的な要素が見えますが、これらは正義感を生み出すための材料であり、正義感は結局のところ強い興奮を生み出すための要素です。社会問題的な要素が登場すると、それがストーリーの核なのかなと読みたくなりますが、今回については、深く考えない方が作品全体のバランスを美しく感じられると思います。

社会問題の要素を深く考えない方が〜と言いましたが、気になりだすとちょっとモヤモヤしてしまう点はありました。
 僕の場合、悪役の計画が途中までそんなに間違っていないように感じられて、気になりました。地球が滅ぶのを止められなさそうだ、全滅するくらいなら、非道なことをしてでも一部の人間を逃して存続しよう、という思考は、実は合理的なのです。直感的には主人公等が正しく思えるように、人体実験の残酷さ、博士を殺害したという罪(別件)や、情報を隠していたといった印象の悪さでごまかされてはいますが。しかし、アイナの姉が妹一人のことしか考えていない、という功利主義と利己主義の対比があるのを考えると、悪役の計画が(途中までは)正しく見えるというプロットは、もしかすると確信的であり、実は、『グレンラガン』や『キルラキル』などでも隠れて存在していた性質かもしれない、と思えます。このことの意味を推測するなら、短絡的で直感的な興奮は、正常な判断を妨げるという警告であり、もしくは、興奮を突き詰める作風に対する、自己否定かもしれない、などと取れるかもしれません。

…まあ、確証が弱い推察はさておくとして、デザイン性、興奮の追求など、たくさんの新鮮さを詰め込んだ作品だと感じたので、総合していうと、かなり気に入りました。

JI