「久々の一大スペクタクル映画」キングダム keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
久々の一大スペクタクル映画
半世紀以上昔の、嘗ての日本映画全盛期の『釈迦』(1961大映)『秦・始皇帝』(1962大映)『明治天皇と日露大戦争』(1957新東宝)等々を彷彿させる、日本映画としては久々の大スペクタクル映画です。
最近多く散見される、人気連載漫画の実写化作品ですが、原作の世界観と物語性を巧く再現しきれない歯痒い例が多い中では、累計発行部数3800万部を超える大ヒット漫画のフレームワークを比較的無難に表現出来ていると思います。
原作は、春秋戦国時代の中国を舞台に、大将軍への夢を抱く奴隷の少年・信と、後に秦の始皇帝となる若き王・嬴政が、やがて中国を統一し初代皇帝にまで伸し上がる壮麗な大河物語であり、本作は、そのほんのイントロダクション箇所を映画化した作品です。
中国での大規模なロケや広々としたオープンセット撮影を駆使したこともあり、さすがに物語の壮大なスケール感、広大な空間での物語の展開による圧倒的な迫力には震撼させられます。巨大な城塞、どこまでも広がる大平原、山河襟帯の俯瞰仰瞰を駆使した、広壮な情景描写は観ていても爽快で唯々圧倒されていました。
輪廻悠久の歴史と広大無辺の大地、壮大なスケールの時空間を有する白髪三千丈の国ゆえの古今無双の圧倒的な迫力には唯々気圧されるばかりで、将に映画館で観る映画に値する作品だと思います。中でも八万の兵を壁上から閲兵するシーンは壮観でした。
また格闘アクションのシーンは、何れも剣と剣による生身の肉体と肉体の壮烈な激突に仕上がっており、迫真の剣・吹矢・棍棒の捌き方、殆ど秒速の身の熟し方、皆が皆、並外れた剛力と敏捷性を発揮して、緊々と押し寄せる激烈な必死の迫力に溢れていました。
疾走する騎馬隊同士の争闘シーンの流麗な迫力、集団間での相乱れた合戦シーンでの血みどろの凄惨な迫力、アクションファンにも堪えられない作品に仕上がっています。
ただ元々原作には主要な登場人物が多く、彼らが悉く個性豊かで非常に魅力的でユニークですが、その多種多様な人物各人の性格描写と各々の描き分けが十分には及ばず、野望、傲慢、強欲、憎悪、過信、奸佞、狡猾、悪辣、凶悍、兇虐、狂暴等々、有象無象の思惑と性向を抱いた人物像の心情表現が浅薄な印象です。
やたらと粗暴、何故か慇懃無礼、只管に尊大云々、緊張感ある情景と緊迫感に満ちた格闘アクションとのバランスが取れていない感があり、2時間強にまとめ上げる制約からきたのでしょうが、もっと深掘りをするか、ストーリーの絞り込みが欲しい処でした。
特に若手役者の一部には、容姿端麗で明眸皓歯、今が旬の溌溂と煌いている役者連ゆえに快活で奔放な威勢に任せた演出を施しているのでしょうが、中国の大地に相応しい重厚で風格のある演技とは思えず、やや違和感がありました。やはり広壮な地の舞台にそぐう所作・言動が望ましく、やや軽薄で粗野なだけの印象が拭えないのは惜しい気がします。