「王への道はまだ遠く 【修正】」キングダム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
王への道はまだ遠く 【修正】
舞台は紀元前255年、春秋戦国時代の中国。後に中国統一
を果たす秦国の王位を奪還するため、若き王と1人
の奴隷が、壮絶な戦いへと身を投じてゆく――
……って、いや、それ日本映画でできんのかッ!?
佐藤信介監督はこれまでも「日本でできんのか?」と
いうスケール感のエンタメ大作に挑戦し続けているが、
予告を見る限り、本作は間違いなく彼のフィルモグラフィ
で最大規模だし、邦画としても破格級の作品と思われた。
発行部数3000万部超の大ヒットコミックが原作
とのことだが、相変わらずの原作未読で申し訳無い。
くわえて、僕は普段洋画ばっか観ている人間なので
いわゆる武侠映画の方面にそこまで明るくないのだが、
スケール感やアクション構成の近そうな作品として
以下の作品を予習・復習したことを記載しておく。
『レッドクリフPART1&2』『グリーンデスティニー』
『英雄/HERO』『墨攻』『セブンソード』『孫文の義士団』
(勿論これらの映画全ての長所を兼ね備えた出来
を本作に求めている訳ではないのであしからず。
そんな映画は存在しないと思う。一長一短が常。)
いやー、これらの作品の半分に出演してるドニー・イェン
先生てホント偉大よね。アクション面だけじゃなくて
武術で培われる仁の道を体現している御方というかね。
チャン・ツィイーも努力家だしめっちゃ可愛いっすね。
チャン・イーモウ監督もアクション専門じゃ無いのに
流麗なアクションと物語との調和が実に……
は? あれ? 違う、今回『キングダム』
のレビューでしたね。本題に移ります。
なお、いつも以上の長文レビュー注意です。
...
最初に結論から書く。
「まあまあ」の3.0判定とさせていただいた。
邦画としては確かに既存のスケールを越える
エンタメ大作には仕上がっていたとは思う。
だがアクションの出来、物語としての深みは、本家の
武侠映画ひいては世界の同スケールのエンタメ大作と
同等までには達していない、というのが正直な感想。
ここからはマイナスポイント中心のレビューとなるので……
本作を気に入ってる方はスッ飛ばしていただければと思う。
不満点のポイントは大きく3つ。
描写不足と演技に起因する行動動機の弱さ、
画枠外のスケール感、そしてアクションシーンだ。
...
まず秦国王エイセイの動機について。
『弟王セイキョウの討伐と王座奪還を果たし、暴君と
罵られようと中華を統一し、戦乱の世を終わらせる』。
エイセイの動機それ自体は力強いし、演じる吉沢亮
の、冷徹さの裏に激しい熱が滲む演技は素晴らしい。
問題は、彼の動機たる弟王セイキョウ側だ。
本郷奏多の憎たらしい演技で多少救われてはいるが、
彼が反乱を成功させた流れの説明も物足りなければ、
民に理不尽を強いる暴君である点も伝わり切らない。
民衆や家臣が彼の圧政に苦しんでいる様が描かれないからだ。
端的に言えば、ド悪党だとは感じるが、その悪事が
殆ど描かれない。だから、主人公達が倒すべき目標
としての悪辣さや、エイセイの目指す“王の道”との
対比が弱く、結果的に物語の勢いが減じて感じられる。
もうひとりの主人公・シンの場合は逆だ。
『親友ヒョウと共に、剣の力で天下の大将軍になる』。
その動機自体はシンプルで良いし、様々な謀略が
渦巻く中、情熱だけで真っ直ぐに突き進むという
共感し易いキャラクターだったとは思う。
だが、演技までシンプルなのはどうなのか。
なにせ怒鳴るか叫ぶか不敵な態度で笑うかの3種類
だけで、おまけに彼が感情過多な語りを始める度に
話の流れが停滞してテンポが悪くなる。演奏会で1人
だけ調子っぱずれの大音量で演奏している感じなのだ。
山の民の説得シーンと最後の“夢”語りは良かったが……
序盤だけならまだしも終盤までずっと同じ調子なので、
ヒョウの想いを受けて彼が技量だけでなく精神的にも
成長していく様は伝わらなかった。
漫画のキャラが元だからと言って、実写をそのまま
漫画に合わせると不整合が生じる。その点が気になる
キャラは他にもいたが、シンはその最たる例に思えた。
...
次に、画枠外のスケール感。
壮大な画やワイプ(画面切り替わりの一手法)などを
観るに、この映画は東洋版『スターウォーズ』や
『指輪物語』のような作品を目指していたのだろう。
実際、中国ロケやエキストラ約1万人という
規格外のロケで実現された画は確かに物凄い。
銀幕を埋め尽くす軍勢や地平線上へ延々と続く隊列、
それそのものが圧倒的な王宮の風景(象山影視城と
いう実際の城でロケしたそうな)、突き出した巨大な
岩山、岸壁の都市(さすがにCGだが美麗)など、
画作りの点はハリウッド大作にも全く引けを取らない。
邦画大作の予算がハリウッド大作の1/10程度だという
ことも考慮すれば、これは本当に驚異的な出来映え。
だがわざわざ“画枠外”と書いたのは、その壮大な画
の外に拡がりが無いように感じてしまったからだ。
先にも触れたが、本作には“民衆”がほぼ登場しない。
シンの住む集落も、山の民も、城下の人々もである。
秦の国の人々の生活や想いが描かれないから、
世界に拡がりがなく、空疎に感じられる。
また、味方3千人VS敵軍8万人と言うが、
いざ戦闘になるとその暴力的な数が伝わらない。
狭い城内に潜入できたことで、一度に多くの
敵を相手にしなくて済むようになったのは
分かる。だが後に控える七万弱の敵兵や、
外にいる味方3千の様子が伝わらない。
国の命運を賭けた戦として、壮大さが不足して感じる。
総じて、画面内はスケール感のある画になっているが、
画面外でより多くの人々が動いている感覚が弱い。
ここばかりは日本映画の制作費では苦しい部分とも
思うのであまり強く言えないのだが……一部キャラに
状況を語らせるとか、構図で実際以上の人数に見せる
とか、何かしら工夫が必要だったのでは思ってしまう。
まあそんなものは下手の横好きに過ぎない意見だが……。
...
最後に、アクションシーン。
この画作りで同監督の『GANTZ』『BLEACH』級の
剣戟アクションがあれば、最初に挙げた武侠映画と比較
しても良い勝負になるかもと考えていたが、本作の
アクションは長さも密度も不足。ひとつひとつの動作は
カッコ良く撮れているけど、細切れなカットを繋いで
見せている感じだったので残念。
違和感を覚える描写もちらほら。
敵兵は早く矢を射てばいいのに随分のんびりしてるし、
弟王の周辺の警備は薄過ぎるし、物語内で最強の存在と
恐れられていたオウキも槍を二、三回振り回しただけで
全然戦闘は見せてくれないし……。
...
以上です。
確かに「邦画にしては壮大」だが、この監督には
それ以上のものを期待してしまうし、本作が
目指したのも、「邦画にしては」を外しても
「壮大」なエンタメ映画だったと思う。
予算上、物量の部分は仕方無いかもだが、
一方で日本映画の良さというのはその細やかさだ。
極端な比較対象で申し訳無いが『七人の侍』の場合、
登場する敵兵の数はたかだか40騎だが、映画
の中ではそれがまるで400騎のように感じる。
それは主人公や民衆の内面を丁寧に描き、戦うことの
痛みと重みをしっかり観客の胸に刻んだからだと思う。
『キングダム』は、アクションのポテンシャルや
その壮大な画作りにおいて、決して海外の大作に
引けを取っていない。
細やかな描写や演技によってもっと世界観を深めれば、
より壮大な作品にすることが出来たのではと感じる。
厳しめに色々書いてしまったが……言いたいことは、
『この作り手の方々ならまだ上へいける』
ということ。なので続編、期待してます。
<2019.04.19鑑賞>
すみません。私もこちらに返信させていただきます。リバーのことはスタンドバイミーと共に残り続けるでしょうね!ホアキンはグラディエーターの演技も印象的でしたがジョーカーでまた新たな境地を獲得して これからも活躍が楽しみですよね。
鬼滅〜本当に《事件》ですね(笑)それも歴史的な!!私も邦画界がアニメに席巻されるのは仕方ない(良作が多いのは確かなので)とは思いますが、やはり俳優が描く映画 更に頑張ってほしいと思ってます!!
そうなんですね!二十世紀少年の3部作で60億ですか❗キングダム①はハッキリとは分かりませんが10億超?だと言われてました。でも、2作目以降は一作目とは比べ物にならないくらいの登場人物が出てきますし、何万?人が戦う戦場シーンがメインになるので コロナさえ心配なかったらエキストラを大勢使って迫力ある画を作って欲しいと思ってます。遠くの兵などは肌色のマスクでもしてもらって(笑)やはりリアルな迫力はCGには出せないと思うので。私は60億以上掛けても撮る価値がある作品だと思います!キングダムは。
それにはやはりコロナの行方が、気になりますね…中国は落ち着いて来たようですが…
浮遊きびなごさん キングダムの続編について今週発売の文春に載ってたのですが、既に6月から撮影が、始まっていたらしいです!そして、ファンには狂喜の なんと!2~4までの一気撮りされているそうなんです!今はまだ国内ロケなんですが、来春に中国ロケを行って②の公開は年末だそうです!
TENETの制作費が、130億?と聞いてキングダムの続編はどのくらいの制作費が、かけられるのかなと思ってましたが、思い切りかけて きびなごさんの期待に応えて素晴らしいものが、創られるのを楽しみに待ちたいと思います!
浮遊きびなごさん 返信ありがとうございます!私のレビューへのコメント欄にきびなごさんへの返信をしてしまいましたが 伝わりましたでしょうか?映画は余計な雑念無く観るに限りますね!
浮遊きびなごさん コメント、共感ありがとうございます😊原作はすでに58巻あり、映画公開時でも54ありましたから、手が出ないと思われるのは確かに解ります。ただ、この映画の部分の原作1〜5巻だけでもどうでしょう?映画で知っているストーリーがどうアレンジされているかとか、キャラの背景とか少し分かって興味深く読めると思います。私は5巻だけ…と読み始めましたが、公開が終わる頃には全巻読んでましたー(笑)続編は5巻の途中から16巻あたりまでと予想しています。そこは映画の後からでもいいかもしれないです…。(余計なお世話ですね すみません)
浮遊きびなごさん なかなか鋭い指摘ですが 私も琥珀さんのコメントに同感です。あれから1年ですが、続編 ついに決まりましたね!ただ、今の状況でいつ中国ロケが出来るのか全く見えず、溜息が出てしまいます。ところで原作は読まれましたか?
santaさん、浮遊きびなごと申します。
残念ながら直接そちらのレビュー等に返信
できないのでお気付きになられるかですが……
コメントありがとうございました!
シン役の演技で色々と辛辣に書いてしまってすみませんね……今まで山崎賢人の演じた役を見ても今回みたいな悪印象は受けなかったんですが、原作のテンションをそのまま実写に持ってきた結果の不整合なんですかねえ(という自分は原作未読なんですが……)。
とはいえ映画のスケールもキャラもポテンシャルをビシバシ感じる作品だったので、続編に期待!ですね。
それでは!
シン役の演技に関して、鑑賞中に感じた違和感の理由が分かりました(笑)
原作のままだと言われれば返す言葉がないんですけど、浮いてましたね。
山崎君は好きなので、続編のキャラの成長に期待したいと思います。
共感とコメントありがとうございます。
「武士MUSA」は厳密には日中韓合作です。音楽が鷲巣詩郎。実は一番のオススメもコレです。テーマ音楽がめちゃアガる。
坂口拓氏は一番のオススメは勿論「VERSUS」ですが主演作「RE:BORN」が一番凄さが伝わるかと。ちょっと怖いくらいですよ。ストーリーはどっかで50回位観てる感じですが…笑
出来ればきびなごさんがどんなレビューするか見てみたい。
「レイン·オブ·アサシン」、「ブレイドマスター」、「武士MUSA」、「楽園の瑕」辺りもオススメですよ。嗜好が偏っててすんません。
なるほどエモーショナルは上記作品には及ばない感じでしたね。
けどこの規模の作品をきっちり仕上げてしまうのが、佐藤信介監督の腕の良さだと思いますよ。
主演公のキャラの弱さも、これから成長して行くものとすれば(俳優本人も含めて)納得のいくレベルだったと思います。
問題なのはこの監督、原作漫画の第一部だけ何作も手掛けて、いっこも続編撮って無い事ですよ!
辛口だけど暖かい。
冷徹な分析だけど邦画界の客観的な状況(私のように何も知らない人間でも、きっとそうなのだろうな、と納得できる)を踏まえてのスタッフの健気な努力への慰労(たぶん感謝の思いも)の気持ちも伝わってくる。
実に気持ちの良いレビューですね。
観た人の9割⁈が期待してる続編。
日中友好(ロケ地確保‼️)と主要キャラクターを務めた俳優さんたちは最低でもあと10年は今のままでいてくれないと困りますね。