「女性差別への痛烈な風刺」ディリリとパリの時間旅行 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
女性差別への痛烈な風刺
上映前に、作品とコラボしたユニセフのプロモーションが流れた。望まない早すぎる結婚、強いられる労働で、少女達の未来が不当に奪われている、という内容。
本作の主題は正にこれである。ストレートに、これでもかという位、その主題が観客にぶつけられる。ブレなく、解り辛さも全くない。
また、ハーフの少女ディリリの純粋な目線から、社会の不条理や人間性の是非を痛烈に風刺している。
CGで描かれた、芸術華やかなりし時代のパリの街並みは立体的でリアル、対してそこで出会う名士達は、絵画から抜け出たかのように時に平面的。
グラデーションに暮れる空に聳えるエッフェル塔のシルエット、オペラ座の地下から水路に漕ぎ出す白鳥の船のシーンなどは、余りの美しさにウットリと見入ってしまった。
その、昼は色彩豊かに、夜は灯りを灯してきらびやかなパリの街を、ディリリと観客は、シャンソンやオペラの調べと共に、配達人の自転車や白鳥の小舟、半人力の飛行船で駆け抜けていく。
様々な芸術家や名士達と出逢い、あれもしたい、これにもなりたいと夢を膨らませるディリリは、何でも出来る、何にでもなれる、可能性に満ちた世界中の少女達の姿そのものだ。
その夢や自由を奪い、地下へ閉じ込める男性支配団の描かれ方は、フアンタジックなタッチの世界の中で、吃驚するほど直接的で露骨だ。
男性の持ち物として、結婚という名の元に家畜同様に少女が売り買いされ、召し使い同然の境遇に置かれている現実がある。婉曲さのない表現に、大人でも衝撃を覚えるが、どうなんだろう。意外に子供の方が、誘拐していじめる悪い人、と、素直にフェアに受け止めるのかも。
この映画では、虐げられる少女と、立ち向かう女性に焦点があてられ、それを助け、或いは立ち塞がる大人の男は多く登場するが、少年達の姿は殆ど見られない。
世界には、例えば、拐われ、洗脳され、兵士として戦場へ送られ、自爆テロの要因とされる、少年達の現実もある。
それらが取り上げられる事はないが、作品中何ヵ所かに、女性問題に止まらない、全ての不公平へのメッセージが感じられる。
男性支配団の活動を目の当たりにし、改心してディリリの救出に加勢するルブフの台詞。「あまりに酷い。それに、【彼ら】も暗く哀れでね」
エドワード皇太子の言葉。「私が望むのは、多様な者が互いに協力し合う事」
支配する者、される者。差別する者、される者。どちらもが闇から解き放たれ、皆が助け合って幸せを目指す世界。
「昼と夜、彼女と彼、子供と大人、貧しい人とお金持ち、皆一緒に」自由になった少女達と未来ある青年が歌い、幕は降りていく。