「処女作、遺作、傑作」象は静かに座っている バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
処女作、遺作、傑作
いや、すごい。ものすごい映画だ。長回しの映像、自然光での撮影(なので室内シーンはやたら暗い)、たっぷり取られた台詞の間。あらゆる意味でどっしりとした重さのある映画だった。映画館で公開された際には234分という長さに躊躇して、どうしようか迷ってるうちに観逃してしまった。失敗でした。これは映画館で観るべき映画だった。暗く重い映画だが、その暗さと重さが素晴らしい。出口のない絶望しかない灰色の地方都市から、どこか遠くにある別の世界へと旅立とうとする孤独な人々の姿が、コロナ下で越境もできなかった公開当時の我々の姿に重なる。登場人物たちの心情に静かに共感してしまった。
監督のフー・ボーは初の長編映画である本作を完成させた後に、29歳の若さで自ら命を絶ったとのことで、これが唯一の長編映画となってしまったが、その後ベルリン映画祭で国際批評家連盟賞と最優秀新人監督賞を獲り、台湾金馬奨でも最優秀作品賞を獲っている。そして主演の4人であるポン・ユーチャン、ワン・ユーウェン、チャン・ユー、リー・ツォンシーが本当に素晴らしい。個人的には若手女優のワン・ユーウェンが特に良かった。これ以前に脇役で出てたドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』で見てたのは後で調べて気づいたが、可愛いし演技も上手い。
果てしない暗闇の中で、本当にあるかどうかも定かでない、わずかな光に微かな希望を託し、腐った世界から脱け出そうとする孤独な人々の1日間を描いた、これは紛れもない傑作です。
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