「こんなにいい映画に出会えるなんて思わなかった」メランコリック kTAhzZwFKIn8XE0さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなにいい映画に出会えるなんて思わなかった
DVDの表紙だけ観て、洋画と思ったら邦画だった笑
それはとにかくどうでも良くて、この作品に会えて本当によかったと思う。
人生の幸せ、和彦が最後に伝えた、「人生に何度か訪れる幸せのために人生を生きていることは、十分だ」というメッセージがこの作品を通してすごく感じた。
風呂屋が実は殺し屋だというスリリングで非現実的な内容とは裏腹に、この作品で感じる「人生の幸せ」はもっと素朴で誰にでも訪れるようなもので、全然非現実的なものではなかった。
百合との会話というひょんなことから働き始めた風呂屋では、夜中に殺人が行われていたということで話は始める。しかし意外にも、和彦にとってはそのこと以上に、そこで現場の掃除という特別な仕事を与えられたことに幸せを感じている。この構図は非常に非常に面白い。殺人と比べているので非現実的に見えるけれど、案外同じ状況なら和彦と同じ選択をする人も多いと思う。というのも、和彦にとっては、誰かが死ぬことに関して多少なり怖さはあるけれど、それ以上に自分の居場所の方が大事だからである。これは多くの人がそうではないかと思う。どんな状況であれ、とにかく自分が過ごしやすいか、自分の居場所があるか、それが第一に考えるのが人間だと思う。相手が殺人者であろうが、自分が頼られ、それに対してしっかりと目に見える褒美をもらうことで和彦は、自分を認めてもらえた、という幸せをこの時感じていたと思う。それは小寺さんを慕うあたり、自分よりも松本の方が頼られ始めることに嫉妬するあたりからも感じられる。繰り返しになるけれど、本当飾らない、人間そのまんまって感じの光景で、観てて惹かれた。
ストーリーはその後、松本が実は殺し屋のプロだということを和彦が知り、さらに小寺さんが殺られることで和彦と松本がヤクザの田中を討つために結束する流れに展開する。
ここでも自分なりに松本と和彦の人間味がとても感じられた。
松本は隠れ殺し屋で非情なやつなのかと思っていたがそうではなく、実は風呂屋の存続、和彦の身を心配する心温かい奴だった。和彦と車内で言い合うシーンは松本の気持ちが感じられ、しびれた。おそらく松本も何気ない風呂屋の日常に幸せを感じていたのだと思う。殺し屋であろうが、和彦みたいなそれとは無縁の人間であろうが、同じ日常を過ごす存在に対して大事な存在と認識するあたり、人間味がめちゃめちゃ感じられる。
和彦もはじめは自分より学歴が下な松本が昇格していくことに苛立ちを感じるけれど、それでもやっぱり和彦にとって松本は大事な存在であり、命かけて一緒に田中を打つ決意をする。この時、僕は和彦は素直だと思った。自分なら松本に抱いた嫉妬心、苛立ちを最後まで変なプライドが引きずる。和彦にはそれがない。松本に対して思うところはあると思う。けれど和彦は素直に松本を知ろうとし、松本から教わろうとする。松本が殺しに出かける際に、いってらっしゃい、気をつけて、というあたり、あれは僕にはできない。和彦の心の美しさ、すごい感じた。
そして、田中との決戦。ストーリーはまさかで、風呂屋のオーナー東の裏切りにより松本が撃たれる。衝撃的だったけどそこに気を取られる間もなく、和彦がやってきて田中も東も撃ってしまう。全く予測できず、ただただ映画に見入っていた。そして、その後も間髪を入れることなく松本の救出に焦点がいく。この時の和彦の、不器用ながらに必死な姿勢が印象的だった。
人間の裏の顔とか人間の裏切りを知っている松本と、その松本にただ素直に寄り添う和彦の2人が、ただただ愛らしく、愛おしいと思った。
最後は、同級生の田村に経営をお願いし、和仁はその下で風呂屋を松本らと営むことで終わりとなる。ここでも、和彦がいかに今までの日常を取り戻せることに幸せを感じているかが、田村との会話で強調される。田村は和彦とちょうど真反対の、人生に成功した人間で、和彦からしたら近寄りたくない人間だ。さらに中盤で百合に対して田村が気があることを知り、尚更和彦にとって田村は厄介な奴だと思う。その田村に、学歴も下な田村に、オーナーを頼む。どれだけのプライドを捨てないとできないことか。それでも和彦はそんな雰囲気もなく、清々しくお願いをする。ここからは田村に頼むこと以上にどれだけ風呂屋の経営の方が和彦にとって大事なのかが強調されている。何から何まで、うまく描写されている。
それまでを踏まえて、最後の和彦目線の言葉。
長い人生の中でずっと続いて欲しいと願う幸せは何度かしかないけれど、それで十分。それで幸せ。
決して大金持ちになるとか愛が実のるとかそういう華やかなことでなくて、むしろ別れているし人殺しもしている。でも大切な松本が救えたこと、自分の居場所が継続できたこと、そういう小さな素朴な幸せがこの映画には描かれていた。
あと、付け加えでもう一つ。和彦の家族の映し方もとても良かった。
和彦の家族は終始、和彦に対して愛がないわけではないけど熱っぽさが全くない。和彦の就職先の話題より味噌汁の味付けを気にする母と、和彦に対していつも穏やかな父。和彦だって話し上手じゃないのに、彼が勇気出して発言してる内容をこの両親ちゃんと聞いてんのかよ笑、と家族の滑稽な雰囲気に鼻笑ってた自分がいた。しかし、その穏やかさは撃たれた松本が運び込まれ、その日家で看病する事態になっても崩れることなく、淡々と映し出されている。この時の穏やかさは、さっきとは違う印象で、どこか温かみを感じる。どんな状況でも一貫した雰囲気を貫く和彦家族の魅力もここでは感じられた。
長くなったけど、この映画の自分なりの魅力をかなり記した気がする。恋愛、スリラー、そして殺人という非現実的の中で強調される素朴なヒューマン要素、最高だった(グロくないのもいい笑)。
コメントありがとうございます。
その松本のセリフ、私もすごく印象に残っています。表面ではサバサバとして明るく振る舞う松本だけにあの言葉の重みはとても感じました。耕介さんが言われた通り、松本にとってもあの瞬間が最高の出会いを味わえた瞬間だったと私も思います。
長々とした拙い文でしたが、読んでくださって私も嬉しかったです!
ありがとうございます。
私も同感です。すごく言葉にしづらいけれど、とても感動した映画でした。私は、松本の、今までで1番うまいうどんだった、というセリフに感動しました。松本もおそらく、和彦とは別の意味で誰にも共感できない人生を歩いていたところ、同じように人生の数少ない最高の瞬間に出会ったのだと思いました。そういうキャラクターに深みを感じさせるというところが、いい映画だと思いました