「Ska」メランコリック いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Ska
鑑賞中もそのリズムは裏拍がとられているような印象をずっと感じていた。何故だか少しズれる。その理由を他の有名ブロガーの批評サイトで何となく掴んだ。それは、この主人公の醸し出す周りとのテンポ感との不和というか遅れなのだ。それがこの作品のより一層の興味深さを演出していて、もしこれを計算して作られているのならば大変な天才的能力を持っている監督であると断言できる。偶然性、又は自然と出来たものであったとしても、一貫性のあるテンポとビート感が全体に繰広げられているストーリー進行を描けたことは決してまぐれでないことを物語っている。対位法を用いたシーンの演技とBGMの弛緩な音楽は、ストーリーそのもののリズムを崩さぬ様、全体をコメディの薄皮でくるむような印象をつけているところも秀逸である。
まるで『卒業』のような、ラストの一瞬の幸福とその先に待っている憂鬱な日々を暗示させる主人公のモノローグが、今作品の最大の白眉であろうし、これが正にタイトル名に結びついているところが圧巻である。全ては計算したものであろうと、それは“デイミアン・チャゼル”監督を彷彿とさせ、鳥肌を立たせる。邦画にもこういう才能を持った人がいたことの喜びである。
勿論、細かい所や雑な部分も見受けることは否めない。只、それも観客の解釈の部分で補完できるような、難しくない部分もあるので、余白みたいな部分の愉しみも又演出なのかも知れない。例えば、そもそも何故あの公衆浴場にはあれだけの凄腕殺し屋が集まるのかという疑問には、所謂ダークな世界では殺人及び死体処理場所が必要でそれを一挙両得に可能とした場所が風呂屋ということは、誰しもが考えたことがない意外な盲点であり発見であろう。そんな斬新なアイデアを実現したあの“松ノ湯”は大変重宝がられ、その世界では有名な場所だったに違いない。そこに集まるのも又、仕事を求めるその筋の連中。あの、アルバイト募集の貼紙は、殺し屋の募集だったのであり、知る由もない主人公は、そのズレたタイミングで応募してしまったのだ。その発想も又斬新であるが、敢えてそれを説明しないシンプルな展開も巧みであり、それ位は観客を信頼するしかないと願いなのかも知れない。
出演者はどれも有名な人ではないが、そのキッチリとしたキャラ設定及び卓越な演技、又はあり得ない程の本格的ガンアクション等も含めて、これがインディーズとは思えない程の高レベルな説得力である。主人公の彼女の決して美人ではないが愛嬌たっぷりな愛されキャラ、松ノ湯主人のどことなく不気味かつ飄々としてしかし情はあっても、最後は裏切る多面性、そしてヤクザの親分の絶対的恐怖感、主人公とバディを組む松本の一途さと、しかし社会にコミットできなかった出自等に於いての多面的表現の妙の、どれもが幾層にもレイヤーのかかっている深みがたっぷりの人物像であり、それが益々“セッション”のように生き生きとしたシーンを彩っている。
前年の国際映画祭に於いて、今作品は多分反響が大きいだろうと、何の根拠もなく敢えてパスして、絶対にどこかで配給が付く筈だと信じた自分の当てずっぽうの先見の名を称賛したい気分であるw