「アマンダの涙の意味は」アマンダと僕 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
アマンダの涙の意味は
フランス映画は文学的である。哲学的と言ってもいい。生と死と愛を実存的なテーマとして、人間のありようが繰り返し描かれる。加えてその時代の社会問題も反映される。最近では移民問題やEUの行き詰まりだ。詳しくは描かれないが、姉サンドリーヌの悲劇にはそのあたりの問題が関係していると思う。
さて近くに住んで互いに助け合って暮している姉弟の弟ダヴィッドが主人公である。姉弟の母親は家族を捨ててイギリスに住んでいて、父親は他界している。姉には娘がひとりいるが、娘の父親はすでに赤の他人となっている。孤独な境涯の姉と弟だが、真面目に仕事をしてなんとか普通に暮らしている。贅沢は望まない。
しかし不条理にもこの慎ましい姉と弟に突然の不幸が訪れる。姉を亡くした弟は母を亡くした姪の世話をしながら途方に暮れる。親族や社会福祉の職員が助けになってくれるが、どこかで決断しなければならない。
日常生活は殆ど正常性バイアスに支配されていると言っていい。家族の突然の死はそれを打ち壊すもので、平静でいられる人は少ない。特に家計を担っている家族の死は深刻な打撃を齎す。アマンダみたいな可愛い姪でも、引き取って育てるとなると大変だ。
ヴァンサン・ラコストは真面目で誠実なダヴィッドの人柄を上手に演じていた。はじめて見る俳優だが、日本の昭和の俳優みたいでなかなかいい。アマンダ役のイゾール・ミュルトリエは更にいい。特にラストシーンの表情が素晴らしい。ずっと受け入れることが出来なかった母の死を、漸く受け入れることが出来た。心に溜まったわだかまりの澱(おり)を涙で流したような晴れ晴れとした表情に、観ているこちらも癒やされる。プレスリーが劇場からいなくなったように、もう母親はこの世界からいなくなったのだ。涙を拭いたアマンダの視界の中で生き生きとプレーする選手の躍動が彼女を勇気づける。不条理な人生だが、生命は輝いている。頑張れアマンダ、世界は君のものだ。