破天荒ボクサーのレビュー・感想・評価
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興行というもの
昨今、各種のスポーツ団体で、今まで隠されてきたような問題が、いろいろと表沙汰になっている。
相撲界の暴力、体操のパワハラ、アメフトの危険タックル、そして、アマボクシングの山根元会長問題など、きりがない。
ボクシング界は、野球やJリーグなどの他競技と比べて、最も組織改革が遅れているという。
しかし、バスケットボールのように国際的な圧力がかからなければ、旧態依然とした体制が変革されないというのは、どのスポーツ団体でも同じだろう。
この映画で直接の対象になっているのは、「亀田処分」でも問題になった日本ボクシングコミッション(JBC)と、「ジム制」という日本独自の慣行であった。
きちんとしたボクシング競技の運営には、ボクサーやジムのライセンス制度、国内ランキング・システム、そして、権威ある世界王座認定団体への加盟が不可欠だろう。
JBCの存在意義は、その公正かつ透明性のある運営にあるはずだ。
だが、この映画で描かれるJBCと有名ジムは、結託して既得権益を握っている、独占禁止法に抵触するような存在であった。
不満をためた山口は、日本のライセンスを捨てて、海外参戦などで7年間活動する「破天荒ボクサー」となったが、タイトルマッチのオファーを受けて、JBCや元所属ジムとの交渉を強いられる・・・。
本作を見て、“興行”というものにまつわる、恣意性や“うさん臭さ”を強く感じた。
“興行”であるからだろう、本来、実力だけで上り詰めて、タイトル挑戦もできるはずが、実際には、ジムの会長に気に入られたボクサーだけがチャンスをもらえるという。
逆に言えば、ジムに気に入られれば、ボクサーは何もしなくても、ジムが強力にバックアップしてくれるのだろう。
海外では、ジムは無関係で、ボクサーのマネージャーが、プロモーター(興行師)と交渉して認められれば参戦できるようだ。
実際、本作のクライマックスは、WBFという団体において山口が戦った世界タイトルマッチである。
だが、それだけではない。
JBCと有名ジムは結託して、もはやJBCとは無縁の山口を呼び出して、JBCの管轄外の“興行”を阻止しようと、圧力をかけるのである。
「ジムの勝手な移籍を認めない、出て行ったら業界全体で結託して“干す”」というところは、芸能界と似通っている。
JBCから離脱したボクサーは、あらゆる面で「国外追放」となる。これが、独占禁止法違反でなくて、何であろうか?
本作品は、山口賢一というボクサーに対する密着取材としては、とても面白かった。
しかし、逆に言えば、ほぼ山口一人への取材になっており、密着しすぎである。
日本のライセンス制度を自ら離脱した、同じような境遇のボクサーも少なくないというのだが、彼らに対するインタビューがほとんどない。各人で、事情は異なるはずだ。
また、顔隠しの匿名取材でもいいから、業界の現状を広い視点から語る人間とか、JBCや有名ジム側のインタビューとか、自分のような事情通以外の観客にとって、何か客観性を担保できる話があればと思った。
本作の範囲では、“単なる山口側の言い分にすぎない”と見なされてしまうし、山口の周囲からの評価や業界における立ち位置も分からない。
対象を絞りすぎるのは諸刃の刃だ。スッキリとまとまった映画にはなるが、全体像がつかめないので、一個人の“人間”ドキュメンタリーにとどまり、訴求力が弱い。
問題点が整理された、社会問題としての“スポーツ”ドキュメンタリーになっていればと惜しまれる。
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