「笑顔」グリーンブック U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
笑顔
愛に溢れた映画だった。
このレビューのタイトルを「尊厳」とつけようと思ったのだけど、ラストカットで、こっちにした。
まだまだ人種差別の風潮が残る時代。
黒人のピアニストが南部へツアーに出向く。自ら死地に赴くようなもので、そのドライバー兼ボディガードのイタリア人との話。
どおやら事実から着想を得た話のようだ。
作品はとてもテンポが良く、時代背景やメインキャストの人柄など凄くコンパクトかつ印象的に紡がれる冒頭が秀逸だった。
この鮮烈な印象を残す冒頭の数シーンが、後に続く会話劇を何倍にも膨らませてくれる。
この冒頭のシーンといい、ラストといい、その手前に登場する警官のシーンといい、脚本もそうだけど、見事な構成の作品だった。
人種差別を扱う映画は幾度も見たけれど、このアプローチは見た事がなかった。
耐えるでもなく、訴えるでもなく、怒りでもなく…貫くとでもいうのだろうか?
人としての尊厳を保ち続ける。
世相を思えば、言う程簡単な事じゃない。
そこから見えてくるのは肌の色ではなく、人格であり品格なのである。
ドライバーであるイタリア人は、共に過ごす時間の中でその偏見を取り除いていく。
彼は彼で、強面の外見とは裏腹にとても情に厚く、大らかな人物だった。
そんな2人が緩やかに邂逅していく様は、心地よい温もりを与えてくれる。
天才的なピアニストは言う
「私は何者なんだ?白人からは迫害され、黒人からは疎外される。私はずっと孤独だ。」
やさぐれたイタリア人は言う
「俺はあんたより黒人だ。白人だけど黒人のような扱いを受けてる。」
お互いの本音を、立場を抜きにして、唯一ぶつけたような台詞だった。それぞれどんな気持ちでこの言葉を聞いたのだろうか?
この作品には胸に刺さる台詞に溢れてた。
俺は英語が分からない。
でもなぜだかこの作品の和訳に「戸田奈津子」の名前を見た時にホッとした。
戸田さんで良かったと、なぜだか思った。
その予感は的中し、俺は今、非常に戸田さんに感謝してる。
凄く細やかに丁寧な仕事をしてくださったんだと勝手に感謝してる。
タイトルの「笑顔」について説明すると、やっぱり要所要所で気になったからだ。
演奏を終え観客に振りまくピアニストのまるで、貼り付けたような笑顔。
ドライバーが「ガハハ」と笑い飛ばすような笑顔。
白人のクライアントがピアニストに向ける社交辞令的な笑顔。
2人がお互いに向ける暖かな笑顔。
ラストシーンでピアニストはドライバーの家を訪問する。
世間はクリスマス。ドライバーの家には友達が集まりホームパーティーの最中だ。
予告なく現れたピアニストをハグで迎えいれるドライバー。冒頭、黒人が使ったグラスを、汚物であるかのようにゴミ箱に捨てた、あのドライバーがだ。
集まった友人達に誇らしげに紹介する。
静まり返る一同。
ピアニストは、ここでもまた観客達に向けたような笑顔を作る。
そこに現れるドライバーの妻。
彼女は尊敬の眼差しを彼に向け、訪問を心から喜びハグをし耳元で呟く。
「素敵な手紙をありがとう」
彼女は捨てられたコップを拾い上げた人物だ。
驚き彼女の顔を見るピアニスト。
再びハグをしたピアニストの笑顔は、名も無きバーで、黒人たちとの即興のjazzを心底楽しんでた時の笑顔だった。
ラストカットは、その奥様の笑顔。
その笑顔は、肌の色など関係なく、彼の全てに敬意を抱き、愛に満ちた笑顔だった。
とても素敵な作品だった。
こんばんは。
現在、私の本作レビューを新観点で見直し中です。
4月21日には投稿予定です。
拝読して頂いて再共感して頂いたならば共感ポイントをお願いします。
ー以上ー