「蒼井優の笑顔、それが希望」長いお別れ ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)
蒼井優の笑顔、それが希望
恐い映画だ。数年後また数年後と経過を告げられるたび、おののかされる。「時」がホラーの正体である。そうだ、この映画はホラー映画のテイストを備えている気がする。しかしホラーとは異質の恐さがある。なんだろう?そうだ、その恐ろしい「時」はスクリーンの内だけでなく外にも居るんだ。さらに気づいてしまったもっと恐ろしいことは、スクリーンの内の「時」は作りごとにすぎないけど、スクリーンの外の「時」はホンモノなんだ。こやつ「時」は、いま映画をみている私の家族を、そして私自身をも襲っているのである。じわじわと、確実に。
ドラマ性は薄くドキュメンタリーなタッチである。年月経て事態が好転するはずはなく、認知症以外のいろんなことも重くのしかかってきて、引き込まれるほどつらくなる。「長いお別れ」といえば詩的で優しい響きあるが、ありていにいえば「ゆっくりと進む人間の崩壊」である。
映画に娯楽性を求めるむきには合わないだろう。それを見越してか、私が最初に行こうと思ったシアターは小さなルームをあてがっていた。私がこの映画に惹きつけられた一番の理由は蒼井優。大きく見たい。だから近隣のなかで一番大きなスクリーンを選んだ。
これが正解だった。蒼井優の笑顔が、この映画では重要なのである。
家族の病、夫婦仲、子供の教育、仕事と夢。心を悩ませる多くのことが次々と起こる。と言っても、それは平凡で日常的なことだから、やるせないし気が滅入る。こんな状況での、なけなしの希望といえるものが蒼井優の笑顔なのである。
行き詰まった家族の救い、それは共に過ごすひとときを愛しむ笑顔だ。
家族間で嫌悪やいがみあいを持たない優良な家族だから、まだ救われた。もし半壊している家族だったら、どれほど悲惨な展開になるだろう。いや、町内そこらじゅうありそうで、なにをいまさらな気づきではあるけれど。
蒼井優から『東京家族』『東京物語』を連想もして小津的な映像余韻を所々で感じた。蒼井優とよい作品が互いを育てあってくれて嬉しい。