「山崎 努の老練な演技と、尊厳を守り抜く家族の風景に泣けてくる」長いお別れ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
山崎 努の老練な演技と、尊厳を守り抜く家族の風景に泣けてくる
中野量太監督といえば、前作「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)が日本アカデミー賞で、宮沢りえが最優秀主演女優賞、杉咲花が最優秀助演女優賞のW栄冠。その他の各賞も受賞したのは記憶に新しい。
この成功は、言うまでもなく、インディーズ監督作品に宮沢りえが主演したことが大きいが、それは中野監督のオリジナル脚本に惚れ込んだからこそ。
しかしそんな中野監督の新作は、オリジナルではなく一転して、中島京子の同名小説の映画化である。認知症になった父親とその家族の物語。家族の風景を描くのは前作と共通している。
原作の中島京子といえば、直木賞受賞した「小さいおうち」(2014)。山田洋次監督によって映画化され、松たか子と黒木華という2大女優を輝かせた。
なるほど、"中野量太監督×中島京子原作"の企画ならば、これだけのキャストが揃うのもうなづける。父親役に山崎 努。2人の娘として蒼井 優、竹内結子が共演する。
タイトルの"長いお別れ(=ロング・グッドバイ)"は、認知症の症状である、時間をかけて少しずつ記憶を失っていく様を例えた言葉だ。実際に著者の父親である中島昭和がアルツハイマー型認知症になり、亡くなるまでの10年間の体験をもとにしている。
また原作は連作短編形式で、父親を中心として、家族ひとりひとりの人生の群像劇となっているわけだが、それぞれのエピソードが家族と父親との年月の変化を、ユーモラスな筆致で描いている。映画もその空気感をうまく伝えている。
この手のテーマにありがちな深刻で重たい空気感が一切ない。
しかし微笑ましくみえて、認知症患者を家族に持つということの実際は、シャレにならないほど壮絶なはず。母・曜子(松原智恵子)が絶えず貫く、父親の尊厳を守り抜く姿勢に頭が下がるばかり。
なんといっても、山崎 努の老練で的確な演技が見どころ。認知症の進行、体力の減衰、コミュニケーションの喪失が明確に分かる。もちろん髪型や服装、メイクなどのサポートもあるのだが、セリフの発声、仕草や姿勢などが徐々に変わっていく。
山崎 努の演技に呼応するように、全力でぶつかる一家を演じる、松原智恵子、蒼井優、竹内結子が作品のバランスを高度に支えている。
明るく描けば描くほど、泣けてくる。
(2019/6/1/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)