「ニコラス(笑)みたいな扱いだが、眠たいヤツは眠ってしまえ、な強気の映画。」マンディ 地獄のロード・ウォリアー しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
ニコラス(笑)みたいな扱いだが、眠たいヤツは眠ってしまえ、な強気の映画。
パノス・コスマトス監督。
どうでもいい情報だが、父は名作「カサンドラ・クロス」「ランボー/怒りの脱出」「コブラ」のジョルジ・P・コスマトス。どちらかというとアクション畑の職人監督。パノスはあるインタビューで、「子供のころ、父の撮影現場に行くのが嫌いだった」と語っており、自身の作品についても「亡き両親の夢と恐怖を記憶の中で再構築したもの」と言ったらしい。
そのとおり、親父さんと違う独自のビジュアルセンスがさく裂。
そして主演はニコラス。すでにこのころはニコラス(笑)みたいな扱いだが、なかなかどうして作品への貢献度は彼のベスト級の
「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」
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1970〜80年代のプログレ、メタルのアルバムジャケットのような視覚に訴えるアート要素満載作品。
コスマトスは、物語の進行よりも、感情と狂気を色と音とで観客に体験させることを重視しており、その美学は全編にわたる。
キング・クリムゾンの「Starless」。
1974年発表のこの曲で、静かな絶望と終末感を孕んだこの映画の世界観をオープニングでみせる。starを失った男の物語が始まる。
冒頭もと米大統領レーガンの演説を流すことで、「保守的なアメリカvs反抗的なヘヴィメタル文化、カルト的狂気」という時代だったことを裏付ける。これから始まるのは、レーガンが語る理想とはまったく逆の世界。
映像は、70〜80年代のヘヴィメタルやプログレッシブ・ロックのアルバムアートを思わせる色彩と構図で構成されて、シーンによって分けられる赤、青、黄色、紫の光が霧に溶ける。
小道具も凝っている。
主人公レッドが着るダサいトラの顔のTシャツは、彼の潜在した「野性」を象徴。復讐へ向かう過程で着替える同じくダサいラグランシャツには、ナンバー「44」。「44」は、エンジェルナンバーと言われ、スピリチュアルな「守護、変容」の意味がある。
ニコラスの前に現れる、カルト教団と謎のバイカー集団(地獄のロードウォリアー(笑))。それぞれが宗教的狂気やドラッグに堕ちた人間の暗黒面を視覚化した存在ということか。
スピリチュアル、と言えば、「あちら側(マンディもそういう意味ではあちら側)」はみんな黒目が大きく、光を失っている。黒目対決だとマンディが1番黒く、ヤツが惹かれたのもそういうところなんだろうな。
この映画の音楽を担当したヨハン・ヨハンソンは、本作が遺作となったが、「starless」と違和感ない劇半が素晴らしい。
ただし、音楽面、映像面が多弁である一方、言葉の説明がないので全編ほぼスローモーションにいい意味でも悪い意味でも「瞑想」に入れる。、
ヘヴィメタルなバトルアックスをこさえてのアクションが派手になる後半はすでに、現実か妄想かの世界に入って、それこそアルバムアートと化し、その世界を堪能する。
それが初めから分かっていれば、十分に楽しい映画だが、そのことを意識しないとただ眠いだけと言われても仕方ない、強気の姿勢がいいね。