「良かった。」ゴッズ・オウン・カントリー ジュンさんの映画レビュー(感想・評価)
良かった。
イングランド、ヨークシャーの片田舎で、祖母と病の後遺症で体がうまく動かない父親と暮らす主人公ジョニーが、家業の牧場で家畜の出産期をやり過ごすために雇われたゲオルゲと出会うお話。
ジョニーは、高校卒業後、大学に進学することもなく、地元に残り家業を継いだ。だから、外へ出て行った人たちやこの場所に縛られて暮らしていかなくてはいけない自分に屈折した思いを抱えている。
物語は全体的に暗く、寒々しい空気が漂っている。
自然こそ雄大で美しいが、牧場にあるのはその自然のみで、そこに吹きすさぶ空気は冷たく、厳しい自然の一面を見せる。
そんななか、ともに山小屋に籠るゲオルゲに当たり、ぶつかり、セックスをしてジョニーが少しずつ解きほぐされていく。
最初はかなり感じ悪いジョニーですが、ちょっとずつ仮面が取れ、可愛い顔をのぞかせるようになります。
ゲオルゲもジョニーも雄弁ではありません。軟派なことは一切言わない。
でも二人の間に確実な何かがあるのはお互いに感じている、言わないけどね。
印象に残ったのは、口下手で正直でなくて臆病なジョニーに、ふたりの関係のこと、ジョニーがなぜゲオルゲを追いかけてきたのかを言わせようとするシーンがあります。
家庭環境のせいでひとり、牧場に閉じ込められて、父親は病により介助無しでは食事もとれない、というちょっと同情しそうな境遇ではありますが、それでもゲオルゲは流されない。
ジョニーが自分の言葉で、一歩を踏み出す瞬間を待ってあげるけど、手を差し伸べるわけではない、そんなシーンに見えました。
変わりたい、いままでとは違う自分になりたい、そう思った青年がその一歩を踏み出す瞬間はグッときました。
良かった。