「変わるものと変わらないもの」男はつらいよ お帰り 寅さん 瑞香さんの映画レビュー(感想・評価)
変わるものと変わらないもの
公開当時に映画館で鑑賞しました。男はつらいよシリーズは何回も観返した大ファンです。4月から社会人になり、たまたま本日江戸川を散歩した時に、どうしてもこの映画のことが頭から離れなくなり、この文章を書いています。
物語というのは「何かが起こり」「主人公がのりこえ」「なんらかの成長をする」のが王道だと思います。寅さんにはそれがなく、むしろ時間的に成長していくのは周囲です。本作でもタコ社長の工場はアパートになり、とらやはカフェになり、満男は妻に先立たれ…時代や時間と共に環境は変わり、それに順応していく形で変化を余儀なくされています(この世界線がある帝釈天はリアルのような寅さんを売りにできないので、カフェになるのも仕方ないでしょう)。寅さんは50作を通じてほとんど変わりません。よく言えば一本筋が通っているし、悪く言えばいつまでも子供の頃のまま。だからこそ周りの人たちは寅さんと衝突するし、同時に憧れ、帰ってきたら温かく迎え入れる。
さて、今作の主人公たる満男は凄まじく変化の渦に巻き込まれています。そしてそんな彼の心の中にはいつも寅さんがいる。変わらない一本の芯としての寅さんがいるからこそ、彼は迷いながらも確実に自分の人生を歩んでいけるのでしょう。ドラマの世界線では亡くなった寅さんも、この映画では「いつかまた帰ってくるような気がする」と生死が不明であるような描写がされています。満男だけでなく、寅さんと関わった全ての登場人物の心の中に寅さんは生き続けている。そしてだからこそ、変化する時代に対しても踏ん張って生きていける。言い換えると、寅さんはあたかも「故郷」のような存在になっている。それは本作を観た全てのファンに当てはまると思うのです。