「寅さんは今もこれからもみんなの心の中に」男はつらいよ お帰り 寅さん おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
寅さんは今もこれからもみんなの心の中に
毎年、大晦日には感動作を鑑賞して、汚れた心を涙で洗い流して、新年を清らかな気持ちで迎えようと決めています。そして、2019年の締めに選んだのが本作です。期待どおりの作品で、2020年も頑張ろうと思わせてくれました。
本作は、「男はつらいよ」シリーズの50周年記念作品ということですが、実は過去作を1本も見たことがありません。もちろん、渥美清さん演じる寅さんが巻き起こす人情喜劇であることや、おなじみの主題歌は知っていました。ただ、ストーリーやキャストにそれほど興味がなく、海外のアクションやSF作品のほうを好んで見ていただけのことです。
そんな、寅さん初心者の自分でも楽しめたのは、22年ぶりの劇場版ということで、多くの年齢層を意識した作品構成がなされていたからではないでしょうか。本作は、寅さんの甥の満男を軸に、彼の視点や独白によって進んでいきますが、そこに多くの回想シーンがはさまれているので、ほどなく人物の相関がわかり、それぞれの人物が抱える思いも伝わってきます。あわせて、寅さんが残した言葉や思い出から、周囲の人がどのような影響を受けたのかを描き、同時に寅さん自身の魅力も描き出しています。
また、回想シーンのおかげで、俳優さんたちの変化が見られたのもおもしろかったです。吉岡秀隆さんは「北の国から」で見慣れてはいましたが、後藤久美子さんは久々に拝見して懐かしかったし、若い頃の倍賞千恵子さんは本当にかわいらしかったです。みなさんそれぞれに、いい感じに年を重ねてこられたことが、スクリーンから伝わってきました。
とにかく本作では、回想シーンがかなり効果的に働いていると感じました。そんな本作のキモともいえる回想シーンを支えているのが、デジタル修復技術です。このおかげで、回想シーンはもちろん、現在シーンにさえ寅さんがいきいきと登場し、他の俳優とみごとに共演しています。
シリーズファンには50年のあゆみを振り返らせ、初心者には50年のブランクをやさしく埋めてくれる本作、見て損はないと思います。むしろこんなにいい作品をなぜ今まで1本も見てこなかったのかと悔やまれますが、一方で自分もいつのまにか寅さんのよさが味わえる年齢になったのだなとも感じます。自分のような人間が増え、寅さんを取り巻く人々がそうであるように、寅さんは今もこれからも日本人の心の中にずっと生き続けていくのだと思います。
「この映画を作るために50年の歳月が必要だった」という山田監督の言葉があったようです。奥深い言葉。やってきたことは間違いじゃなかったんですね。
俺も今まで劇場で観てこなかったことをしきりに後悔しております・・・