「くるまや同窓会」男はつらいよ お帰り 寅さん t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)
くるまや同窓会
リチャード・リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」は13年間にわたる同一キャストの夫婦と息子を経年的に描いて、2015年のアカデミー賞では話題をさらった作品だった。もちろん、その製作手法が大きく評価されたことは言うまでもないだろう。22年の間隙を超えての「寅さん映画」である。令和になった今、新進小説家となった満男は娘ユリとの生活がある。そしてある日、偶然再会した及川泉との数日間が描かれていく。そこで展開される物語は、かつての(後期の寅さんは殆ど満男の青春成長&恋愛物語と人生アドバイザーとなる寅の話だった)満男と泉のエピソードや「くるまや」に集う面々の老いと世代交代を、かつての映画のシーンのカットを共有させたり、目配せしたセリフを重層的に織り交ぜながら進んでいく。
今回の満男と泉のエピソードは、かつては恋愛コンサルタントとして存在した寅さん不在のなか、互いに「ここに寅さんがいたら、どうしていたか」と言うことを意識しつつ描写されていく。相変わらず行方不明の寅さんの存在や輪郭が、すべての登場人物が寅さんを意識することによって浮彫になっていく。たとえば、荒野で堀跡を掘っていったら、城の全容が浮かび上がるようなものか。そこには確かに、この形の「寅さん=城」があったことが解る。「桐島、部活やめるってよ」(2012年 吉田大八監督)という高校生の傑作群像劇で、タイトルロールの桐島は最後まで登場してこなかった。そんな香りを残しつつ本作では、膨大に存在する「男はつらいよ」での寅さんが<具象的に>登場していく(シリーズ50周年、49作品)。最後まで「令和になって老いた寅さん」は出てこないが、さくらは「お兄ちゃん、いつ帰ってきてもいいように」と二階の部屋を使えるようにしている。まだ寅は、どこかで生きているのだろう。
「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989年 ジュゼッペ・トルナトーレ監督)を彷彿させるクライマックスのサービスシーン。やはり「冒頭の夢」のあるお約束。微笑ましい。
役者では夏木マリがいい。