「トランプ大統領と手法は違うけど、監督。これも立派にプロバガンダですよ。」華氏119 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
トランプ大統領と手法は違うけど、監督。これも立派にプロバガンダですよ。
興味深いという言葉と、楽しいとか、愉快だという言葉が、日本語ではともに「おもしろい」で一括りにされますが、この映画は「楽しくもないし、愉快でもない」映画です。
でも「興味深い」ことは事実です。
政治経験のないままに、金の力に物を言わせて当選した大富豪のリック・スナイダー・ミシガン州知事が、法的根拠も希薄な非常事態宣言を発して(……とマイケル・ムーアは主張しています)、州内の全市長を解任し、自分の手下を臨時市長として就任させ、好き勝手に利益をむさぼる姿が丹念に描かれています。
なかでもフリント市が、もともとの上水道を廃止し、知事の金儲け仲間が敷設した水道管に切り換え、鉛管(安いが猛毒性)を使っているために水道水は高濃度に鉛汚染され、市民が被害を受けているのに、それを徹底的に隠蔽し、金儲けに猛進する姿が告発されています。
フリント市は、無警告のまま、軍の実弾演習の的にされるなど、まったくムチャクチャ。そこに住民がいることが、市街戦の実戦演習に好都合だから、とムーア監督。
それもこれも市民の半数が黒人で、貧しい町だから、ということ。
この大富豪が行った手法を、大富豪仲間のトランプ大統領が政権を握ったら、参考にしないはずがないではないかというのが映画での監督の主張です。
この映画の問題点は、昔のマイケル・ムーア作品と違って、ほとんど相手方のインタビューを撮れていないことに尽きます。
この欠陥を補うために、ニュース映像などをつなぎ合せて構成しているわけですが、大手マスコミが編集した映像を、再度切り貼り編集して映画化した構造ですから、ドキュメンタリーとしてのソースの信頼度は二次情報レベル。
ネットのYouTubeや2ちゃんねると同じ水準です。
この穴から観客の目を逸らすため、ヒットラーの映像にトランプの声を当てレコするなどの工作もしていますが、これってまさにプロバガンダそのものじゃないかと言われたら、監督はどう抗弁するつもりなのか、謎だらけな作品でした。
とはいえ、トランプ大統領がどれほど危険であるかという点については言うまでもなく、民主主義が終わりを迎えたのではないかという主張に対しては、その可能性も充分にあるかも知れませんね、と考えるためのひとつの材料として、「おもしろい映画」だったとは思います。
今後、大統領が、まったく親近感を抱かない外国、とりわけ非白人国をどう扱っていくつもりなのか、それを想像する材料としても、おもしろかったです。
自国民に対してすら、金儲けのためなら人を人間とも思わないメンタリティーの人たちですからねぇ。
なお、アメリカ版のウィキペディアには、フリント市の水道危機について、Flint water crisisという独自項目も立っています。それだけ状況が酷いということなのでしょう。