「現実の「罪」と夢の「楽園」の隔たりを想像する」楽園(2019) AuVisさんの映画レビュー(感想・評価)
現実の「罪」と夢の「楽園」の隔たりを想像する
吉田修一の「犯罪小説集」は、タイトルに反するようだが犯罪を描くことが主眼ではない。人間が(日本人が、と限定してもいい)一線を越えて罪を犯すまでの状況、そんな状況に個人を追い込んでいく周囲の直接間接の圧力(これも広義の罪と言える)を描くことに重きを置き、犯罪の場面の描写や犯人の内面はあっさり省略するか微妙にぼかしている。
瀬々敬久監督による脚本と演出も原作の趣旨を踏まえ、小さな町や村の人々が、同調しない人間、理解できない人間を排除する集団の“暴力”を、じわじわと胸を締めつけるような迫力で映像化した。作家と監督の心はともに、2つの短編をつなぐ役割を担った紡(つむぎ)という名の女性(杉咲花)と同様、綾野剛と佐藤浩市が演じる排除される側の個人に寄り添う。復讐のカタルシスを与えるでもなく、観客に鏡を突きつける意図でもなく、想像力にかすかな希望を委ねる優しさが映画の題からも伝わってくる。
コメントする
ホワイトガウンさんのコメント
2019年11月3日
最近の月並みの映画やドラマは人々の興味を引くために、殺人シーンに重点をおくが、この映画は、殺人シーンは無く、罪に至る心理描写に重きを置いており、罪犯さざるを得なかった人々の心に寄り添う。