劇場公開日 2019年10月18日

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「岐路と選択」楽園(2019) aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5岐路と選択

2019年10月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

人間は1日に、9000回の判断をして生きているそうだ。テレビのチャンネル、電車の乗車位置、ランチのメニュー…。その何処かに人生の岐路はあるはずだが、大半は後から思うもので、その瞬間には、選択をしている意識すら無いものだと思う。
本作の二人の主人公、紡(杉咲花)と善次郎(佐藤浩市)も、そんな岐路を後悔しながら、閉鎖空間である村社会に暮らし、それぞれの物語を生きていく。2人の接点はもう1人の人物、豪士(綾野剛)の物語でつながりを持つが、全く別の物語という面白い構成だ。後で知ったが原作は2作の短編とのこと。なかなかのチャレンジだ。

紡は幼い頃、学校からの帰り道、Y字路で分かれた友達が行方不明になり見つからず、その責任の一端を感じながら生きてきた。豪士は、幼い頃に母に連れられて日本に住むが、母に捨てられる恐怖を抱え、狭い村にも馴染めず内向的に成長する。善次郎は、早逝した妻を忘れられず、思い出を胸に生まれ故郷に戻り、養蜂を始める。そんな時に豪士を巻き込む事件が起き、村人は秘めていた閉鎖性と排斥性を剥き出しにし始める。

全体的にのっぺりと重いトーンであったが、役者陣の奮闘で飽きずに最後まで。ちょっと間違えたら、滑稽な演技になりかねないところを、皆さんうまく落ち着けた感じがする。柄本明さんも、孫を失いどうして良いかわからない老人を名演。諦観や壊れた心の片鱗が垣間見える、独特の雰囲気だ。

スケープゴートを見つけて、叩くことで全体の安心を得る。昔ながらの田舎の村の話ではなく、日本全体もあまりかわって無いのかもしれないと、少し怖くなった。
ラストの紡の選択と電話のシーンは、賛成。それがあるからこそ、この映画のテーマである怖い性質が際立ち、全体の閉塞感が思い返された。でも、そのせいでもう一度見ようという気にならないけど。

AMaclean